研究課題/領域番号 |
18H05251
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
原 亨和 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (70272713)
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研究分担者 |
Chandra Debraj 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (20802309)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | アンモニア / 電子供与体 / ヒドリド欠陥 / ルテニウム / 酸化バリウム / 水素化バリウム |
研究実績の概要 |
Ru微粒子を担持したMgH2、CaH2、SrH2、BaH2 (Ru/MH2)のNH3合成活性から、BaH2ヒドリド欠陥種BaH(2-x)e-xは強い電子供与体としてのポテンシャルを有するも、300 ℃程度の反応条件ではBaH2からHが抜けてヒドリド欠陥種が生成することが困難なため、Ru/BaH2はこの反応温度ではほとんどNH3を合成できないことが明らかになった。このことは逆に、BaH2からHが抜け安くすれば、当該電子供与体を反応条件で活用できることを示唆している。この戦略に基づき、BaH2とBaOの複合体(BaO-BaH2)を構築し、電子供与体として使うことを着想した。 BaーHのイオン結合エネルギーは192 kJ mol-1であり、BaーOイオン結合エネルギーは562 kJ mol-1に達する。従って、BaH2のHの一部をOに置き換えれば、BaーH結合は弱くなる。そして、このような構造はBaH2中にBaOを分散させれば構築できると予想した。本研究では、少量のBaO微粒子をCaH2粒子に混合し、加熱する単純な方法でBaO-BaH2を構築することに成功した。BaO-BaH2にRuナノ粒子(10 wt%、平均粒子径:4 nm)を固定化した触媒(Ru/BaO-BaH2)のH2脱離はRu/BaH2より150 ℃以上低温で起こることから、300 ℃付近の反応温度で強い電子供与能をもつヒドリド欠陥種が高密度に生成していることが予想された。上述のように300 ℃程度の反応温度でRu/BaH2はNH3合成活性をほとんど示さないが、、Ru/BaO-BaH2はこれまで発表された触媒の中で最も高い活性をもつRu/Ba-Ca(NH2)2 (Ba添加Ca(NH2)2担持Ru触媒:代表者の論文Angew. Chem. 2018, 130, 2678.)に匹敵するNH3合成活性を300 ℃で示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画の要として、「(A)アルカリ土類金属水素化物の水素放出の促進」と「(B)アルカリ土類金属水素化物とその表面に構築した強い電子供与体による二重の電子供与」は研究開始から2年目以降に着手する予定であった。しかし、研究開始から2カ月でRu/BaO-BaH2が創出され、そのメカニズムが明らかになると共に、更に高活性な触媒の開発指針が定まりつつある。即ち、研究開始から1年の経過で、上記(A)、(B)を満たし、予想以上の性能を発揮する触媒の創出に前倒しで成功している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度成果Ru/BaO-BaH2触媒はBaH2へのOの導入により、BaーH結合が弱まり、より低温でHが脱離すること、また、それによってヒドリド欠陥種が生成し、Ruへの強い電子供与がNH3合成活性を大きく押し上げることを示唆している。しかし、Ru/BaO-BaH2は高い温度領域で高いNH3合成活性を示すが、100 ℃未満では作動しないことが確認された。これは、100 ℃未満で当該触媒はHを放出することができず、強い電子供与体を形成できないためだと予想される。これを実証すると共に100 ℃未満で作動する触媒を創出するため、斜方晶系CaH2表面上に形成した立法晶系CaF1.0H1.0固溶体にRu粒子を固定化した触媒を構築する。Ru/CaH2でのHの放出温度は150~200 ℃である。一方、Ca-Fイオン結合(529 kJ mol-1) は Ca-Hイオン結合(224 kJ mol-1)より強いため、Ru/BaO-BaH2の場合と同様にRu/CaFHではHの脱離がより低温で進み、より低温での強い電子供与体の生成が期待できる。即ち、CaFHを電子供与体として100 ℃未満でのNH3合成を実現できる可能性が高い。
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