研究課題/領域番号 |
18H05254
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中野 貴由 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30243182)
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研究分担者 |
松本 卓也 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (40324793)
坂井 孝司 山口大学, 大学院医学系研究科, 教授 (00444539)
萩原 幸司 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (10346182)
石本 卓也 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (50508835)
福田 英次 弓削商船高等専門学校, 電子機械工学科, 講師 (30536553)
當代 光陽 新居浜工業高等専門学校, 環境材料工学科, 准教授 (10610800)
村瀬 剛 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (50335361)
山本 まりこ (河井まりこ) 関西女子短期大学, その他部局等, 教授 (40379839)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 異方性の材料科学 / 金属3Dプリンタ / インプラント / 骨異方性 / 耐食性 / オステオカルシン / アパタイト / コラーゲン |
研究実績の概要 |
骨異方性誘導のための「異方性の材料科学」の構築に向け、(A) 自発的異方性骨配向化機構解明、ならびに(B)人為的骨異方性促進材料・インプラントの創製と自発的骨配向化との相互作用の解明を両輪として研究を推進してきた。加えて、今年度は臨床適用(実用化・社会への貢献)をより強く意識したゴールを新たに設定し、当初目標を上回る成果が多数得られている。具体的成果の詳細について以下に記載する。
(A) 自発的異方性骨配向化機構解明:骨基質タンパク質の一種オステオカルシン(OCN)が、骨配向化を本質的に制御していることを発見した。具体的には、OCNがコラーゲン線維上へのアパタイト結晶核生成時の方位関係を規定する役割を有し、OCNの欠損により、コラーゲンが正常に優先配向化している場合であってもアパタイトの結晶学的方位が無秩序化し、結果として骨の剛性が著しく低下(骨折リスクが上昇)することを見出した。
(B) 人為的骨異方性促進材料・インプラントの創製と、自発的骨配向化との相互作用の解明:配向化誘導微細溝構造を有する新設計脊椎固定ケージを金属3Dプリンタにて高精度に実現した。動物脊椎への埋入試験の結果、驚くべきことに、配向化誘導型ケージでは従来型ケージを大幅に上回る界面強度を示した。すなわち、ケージ内部に高配向化骨が誘導され、骨/ケージ界面が健全な異方性を有する骨で連結されることで、機能的に融合したことを意味する。さらに、金属3Dプリンタを用いた原子配列の異方性制御により、生体骨代替用ステンレスSUS316Lの耐孔食性向上をもたらした。本成果は、Scripta Materialia誌に速報として掲載され、Most Cited Scripta Materialia Articlesに選出されるなど世界的な注目を集めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
目標とする自発的異方性骨配向化機構解明、ならびに人為的骨異方性促進材料・インプラントの創製と自発的骨配向化との相互作用の解明は当初の想定を超えて進展し、当初計画をはるかに上回る研究成果を得ている。具体的には、以下に示す5つの特筆すべき世界的発見を既に達成しており、各項目ごとの進捗を以下に示す。なお、◎:当初計画以上に進展、〇:当初計画どおりに進展、を意味する。
(i) オステオカルシン(OCN)の未知の機能を解明:OCN タンパクが、骨形成マーカーとしての古典的役割とはまったく異なる、骨異方性の形成という特異機能を有することを世界に先駆けて発見した(PLoS Getetics 16 (2020), e1008586)(◎)、(ii)「骨基質異方性の人為的な作り分け」を可能とする遺伝子Tspan11の発見:骨芽細胞が排出するコラーゲンの配向方向を自在に操り、結果としてアパタイト異方性を決定する遺伝子Tspan11 を発見した(Biomaterials(IF: 10.3)209 (2019), pp.103-110)(〇)、(iii) 骨異方性誘導の原理に基づいた脊椎インプラント創製:3D プリンタ(レーザ積層造形)を用いた形状制御により、配向化誘導溝構造を壁面に有する一方向孔を内部に設けた新設計脊椎固定ケージを実現した(〇)、(iv) 金属3D プリンタによるステンレス鋼の耐食性の劇的な向上:レーザ積層造形により、本来不可避の孔食の発生を完全に防止し、一般的なステンレスの定義を超越する高耐食性を与えることに成功した(Scripta Materialia 159 (2019), pp. 89-93)(◎)、(v) 非侵襲アパタイト配向性診断法の確立:超音波を用いた配向性評価法を確立し、配向性指標の臨床適用への可能性を拓いた(Bone 127 (2019), pp. 82-90)(◎)。
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今後の研究の推進方策 |
骨配向化制御因子としてOCNやTspan11といった遺伝子・タンパク質が特定されたことから、これら因子の上流・下流をたどることで骨配向化シグナル伝達経路の全体像を明らかにしたい。その解決のために、次世代シーケンシングや共培養系の樹立により骨配向化の生物学的経路を同定する。これら同定した配向化誘導因子は将来的には薬剤として活用することを目標に、生体機能分子の徐放・輸送システム構築を目指す。さらには、金属3Dプリンタを用いた低弾性異方性化インプラントを創製、その仕組みを生体骨異方性形成メカニズムに取り込むことで、材料工学と生物科学の融合により、金属材料でありながらあたかも生体骨のように振る舞うインプラントを実現する。
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