研究課題/領域番号 |
18H05257
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
金 有洙 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (50373296)
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研究分担者 |
今田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (80586917)
数間 恵弥子 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (50633864)
山本 駿玄 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (50802782)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 近接場光 / 走査トンネル顕微鏡 / 単一分子 / エネルギー移動・変換 / 表面 |
研究実績の概要 |
研究項目①~④の各実績の概要は以下の通りである。 研究項目①:単一分子光スイッチの計測法として、近接場光が誘起する分子の構造変化に伴うトンネル電流の変化を捉える。そこで、フタロシアニン分子の可逆的異性化反応を観測し、分子の可逆変化に伴う電流変化を捉え、計測が技術的に可能であることを示した。 研究項目②:本項目でターゲットとしている分子間エネルギー移動は励起状態の寿命が長いほど効率良く生じまた時間追跡が容易になると期待される。そのため、励起状態寿命の直接計測や制御が重要な基盤技術となると考えられる。これまでの研究成果として、励起状態寿命の長いスピン三重項励起状態の選択的形成の実現(K. Kimura et al., Nature 2019)および、単一分子の励起状態寿命の見積もりと寿命制御法の開発を行った(H. Imada et al. in preparation)。 研究項目③:これまでは、単一のレーザーを用いた予備的な実験と二つのレーザーを同期させるシステムの構築を行ってきた。単一のレーザーを用いた実験では、赤外分光と相補的な情報を与えるラマン散乱分光を単一分子で実現した。これまで未解明だった近接場光の単一分子によるラマン散乱過程の詳細を解明し、世界に先駆けて選択則を記述することに成功した(R. Jaculbia et al., Nature Nanotechnology 2020)。 研究項目④:円偏光を生じる局在プラズモンが探針直下近傍に存在することで、光が外部から照射される場合に、探針直下で一方の円偏光が増強及び局所化され得る。そこで、スピン偏極STM探針に関してプラズモンの発光分光測定を行い、偏極率が70%に達する円偏光モードが生じることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究項目①~④の各進捗状況は以下の通りである。 研究項目①:単一分子光スイッチの計測法をフォトクロミック分子に適用することを目指しているが、2019年度の途中で近接場光の生成に不可欠な銀探針の作製が不可能な状況に陥った。このため、研究計画の一部を変更し、当初の研究計画の延期さらには代替材料での探針開発に取り組んでいる。 研究項目②:研究提案時には、スピン一重項励起状態の寿命は数100 ps程度であるという先行研究の報告に基づき時間分解計測を計画したが、我々の研究結果は数psの寿命を示唆している。これにより当初の計画通りの実験手法では時間分解能が不足する恐れが生じた。この問題を解決するために、スピン選択則に守られ寿命の長いスピン三重項励起状態の活用を当初の研究計画に加え、目標が達成できるように計画を修正し研究を進めている。 研究項目③:単一のレーザーを用いた予備的なラマン分光実験に関しては、ラマン分光が、本項目で開発する赤外分光に対して非常に良い比較対象データを与えると期待される。二台のレーザーを同期させるシステムの構築は新型コロナウイルス拡散の影響によりレーザーの納品に数か月の遅れが生じている。 研究項目④:本項目の目的は、光誘起磁場をプラズモンにより局所化し、それに伴う局所磁化反転を観測することにある。現在までに、局所磁化を観測可能とするスピン偏極STM探針を用い、ナノ磁性体の詳細な磁気構造を明らかにしている。さらに、この探針におけるプラズモン発光分光測定から、光磁場を局所化する上でカギとなる円偏光モードの存在を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目①:2019年度に引き続き、紫外から青色のエネルギー領域に共鳴し近接場光を生じる探針の作製条件の最適化を行う。単一分子光スイッチの計測手法を、ジアリルエテンなどのフォトクロミック分子に適用し、最適化を行った探針を用いて単一分子光スイッチの詳細な検討を行い、単一分子レベルでの高速on/off光スイッチの実現を目指す。 研究項目②:本年度からは従来通り一重項励起状態を起点とする分子間エネルギー移動の実験を行うだけではなく、より寿命が長くエネルギー移動効率の高くかつ時間追跡が容易であると期待される三重項励起状態を起点とする実験も追加し、二つの実験を並行して進めて行く。 研究項目③:2019年度にレーザーを導入し同期して動作する2台のpsパルスレーザーシステムが完成し、これにより、2つの異なる周波数のレーザーパルスを同時にSTM探針に照射することが可能となる予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス拡散の影響によりレーザーの納品に数か月の遅れが生じている。レーザーが納品され次第2020年度から本格的にこのシステムを運用し、差周波発生や和周波発生、高調波発生などの近接場で生じる非線形光学現象を探索する。 研究項目④:局所光磁場印加の実現には、1.プラズモン共鳴モードを持つスピン偏極STMの開発およびSTM探針の探索、2.光誘起磁場で磁化反転するナノ磁性体(試料)、及び、3.光誘起磁場による磁化反転(光照射)が必要となる。現在までに、バルク磁性体探針が開発でき、1及び2がほぼ完了したため、今後は光照射による磁化反転を目指す。
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