研究課題
本年度は、各担当チームにて量子計測三角形の実現に必要な要素技術の開発を進め、以下の進捗があった。NTTにおいては、新規の単電子転送素子の作製をほぼ完了し、テスト測定の準備を進めた。既存素子を用いた測定では、高周波動作(サブ10GHz)や動作温度上昇(数10K)に伴う単電子転送精度の劣化機構を調べ、高周波動作下では理論で予測される温度依存性が抑制されるとともに、電子の非断熱励起が生じていることを見出した。単電子の高速ダイナミクスを理解する上で重要な知見である。また、欧州量子電流標準プロジェクトとの連携では、NTT素子を含む各国標準機関で作製された単電子転送素子がいずれも1ppmレベルでユニバーサルに動作することを確認した。産総研においては、NTTで作製されたシリコン単電子転送素子の動作について、産総研システムでの検証と並列動作実験のための低温駆動実験系の構築を行った。また、産総研で作製した高抵抗量子ホールアレーのより詳細な検証実験に成功し、同素子を用いた量子電流電圧変換実験に成功した。量子計測三角形の測定系構築に向けて、ジョセフソン量子電圧計の素子の専用冷凍機を用いた精密評価を終了させ、「産総研トライアングルシステム」への実装を行なっている。電通大においては、単電子転送素子の転送エラーの高速検出を目指して試作する単一磁束量子回路(SFQ)を用いた回路方式を実現するために、次の3項目に取り組んだ。(1) 希釈冷凍温度で動作するプレーナ型のSFQ用接合を作製するために、簡便に利用できるCr/Au薄膜シャント抵抗を見出した。(2) 希釈冷凍温度から室温へのSFQパルスの読み出しのための低温高周波回路の構築と、読み取り可能性の検証を行った。(3) SFQ回路に組み込む電荷(電圧)敏感な素子としての超伝導単電子トランジスタ(SSET)の超伝導スイッチとしての機能を検証した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、計画通り、各担当チームにて研究の推進と要素技術の開発を進めた。NTTにおいては、計画通り、新しい設計に基づく素子作製を進め、ほぼ完了にこぎつけた。また、スクリーニングテスト用に導入した低温プローバ装置の立ち上げを完了した。高速単電子ダイナミクスの制御についても、既存素子を用いた測定で温度依存性の特異な抑制効果を見出すなど進展があった。欧州の量子電流標準プロジェクトに協力し、単電子転送素子のユニバーサル動作の実証に貢献した。産総研においても、計画通り、高抵抗量子ホールアレーの作製と詳細な検証実験を行うとともに、同素子を用いた量子電流電圧変換実験に成功した。また、「産総研トライアングルシステム」の構築についても、NTTのシリコン単電子転送素子の低温駆動実験系の構築、ジョセフソン量子電圧素子の精密評価を完了するなど着実な進展があった。電通大においても、計画通り、単一磁束量子回路の開発を進め、薄膜シャント抵抗作製条件の最適化、希釈冷凍機内での読み出し用の低温高周波回路の構築とその動作性能の検証、電荷計となる超伝導単電子素子の動作確認に成功した、また、量子電流ミラーの作製技術の改善に向けて自動化改造を完了した。以上ように、計画に基づいて研究は概ね順調に進展している。
今後は各担当チームにて量子計測三角形の実現に必要な要素技術の開発を進めるとともに、共同実験の準備として産総研におけるNTTの単電子転送素子のテスト測定を開始する。NTTにおいては、昨年度から進めている新規デバイス作製を完了し、作製した単電子転送素子、アレイ型転送素子の基本動作確認の測定を行うとともに、前年度に導入した低振動プローバ等を用いてスクリーニングテストを行う。また、既存の単電子素子を用いて、産総研や海外の標準研究所におけるテスト測定を順次進める。単電子転送の精度を支配する単電子ダイナミクスの物理の研究も引き続き推進する。特に、サブ10 GHz動作下の電子非断熱励起や電子格子相互作用との競合について理解を深めるともに、最適な制御方法や素子構造についての知見を蓄積していく。産総研においては、NTTで作製されたシリコン単電子転送素子の動作について、産総研システムでの検証と並列動作実験を実施する。また、産総研で作製した高抵抗量子ホールアレーを用いた電流電圧変換の実験より詳細に実施する。また、量子計測三角形の測定系構築に向けて、ジョセフソン量子電圧計の「産総研トライアングルシステム」への実装を行い、テスト測定を実行する。電通大においては、昨年度に作製条件を最適化したCr/Au薄膜シャント抵抗を用いて、過減衰特性をもつAl/AlOx/Al接合系の作製および単一磁束量子回路(SFQ)の試作を進める。また、前年度作製したSFQパルス読み出し回路や単電子検出用の超伝導単電子トランジスタについてさらなる改良を加える。電流ミラー用の高誘電体絶縁膜形成については、原子層堆積装置の原料ライン増設などを進める。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 2件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 15件、 招待講演 5件) 備考 (4件)
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