研究課題/領域番号 |
18H05258
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
藤原 聡 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 上席特別研究員 (70393759)
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研究分担者 |
山端 元音 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 主任研究員 (00751702)
金子 晋久 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 首席研究員 (30371032)
島田 宏 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (60216067)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 量子計測三角形 / 単電子 / 量子ホール / 量子電気標準 |
研究実績の概要 |
本年度は、各担当チームにて量子計測三角形の実現に必要な要素技術の開発並びに関連する物理の研究を展開するとともに、チーム連携の共同実験も開始し、以下の進捗があった。 NTTでは、変調バリア型の単電子転送素子の作製と評価を推進した。スクリーニングテスト用の低振動型冷媒型低温プローバの稼働が開始し、低温測定(10K程度以下)でのスクリーニングテストを円滑に進める準備が整った。単電子転送の高精度化、高電流化に向けて、動的量子ドットのポテンシャルバリアの形状評価、高周波動作(サブ10GHz)での高速単電子転送におけるピコ秒単電子量子振動の検出など、素子最適化に重要な知見や新現象の観測に成功した。 産総研においては、量子計測三角形を構成する「抵抗」「電圧」「電流」に関して研究を推進した。「抵抗」については、1 MΩ、10 MΩ量子ホールアレイの作製と評価を行い、1 MΩについては、量子電流-電圧変換器としての性能評価に成功した。「電圧」に関しては、量子電圧計測用のジョセフソン電圧標準の開発と精密検証を完了し、希釈冷凍機への実装を行った。「電流」に関しては、NTTのシリコン単電子転送素子を専用冷凍機で並列駆動するための実験セットアップの構築を行い、テスト測定として、単一素子を駆動し、5 ppm以下の不確かさでの動作を確認した。 電通大においては、単電子転送エラーの高速検出を可能とする新しい単一磁束量子回路(SFQ)の実現に向けて、 (1)プレーナ型SFQ用接合の作製に向けたCr/Au薄膜シャント抵抗にAl製トンネル接合を接続するプロセスの開発、(2) SFQパルスの読み出し回路の周辺回路の構築、(3) SFQ回路に組み込む超伝導単電子素子の並列化の検討、を行った。また、電流ミラーへの高誘電率誘電体薄膜の導入のために、原子層体積法成膜装置の自動制御化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、計画通り、各担当チームにて研究を進め、共同実験にも着手した。 NTTにおいては、単電子転送素子作製と評価を進め、スクリーニングテスト用に導入した低温プローバ装置の稼働を開始した。動的量子ドットのポテンシャルバリアの形状評価、高周波動作(サブ10GHz)でのピコ秒単電子量子振動の検出など、素子構造エンジニアリグに重要となる知見や素子の高周波動作限界に関連する現象の解明が進み、世界最高精度の単電子転送素子とその高度な制御に向けて着実に研究が進んだ。 産総研においても、量子計三角形実験系を一つの冷凍機に搭載する世界初の試みに向けた準備が着実に進んだ。独自の集積化技術を駆使した量子ホールアレイの作製と量子電流-電圧変換器としての性能評価、さらなる高抵抗化を目指した10 MΩ量子ホールアレイの作製と評価、ジョセフソン電圧標準の開発と精密検証、および冷凍機への実装、NTT単電子転送素子を用いた量子化電流の確認などで進展があった。 電通大においても、計画通り、単一磁束量子回路の開発を進め、プレーナ型SFQ用接合作製プロセスの開発、希釈冷凍機内での読み出し用の低温高周波回路の構築、電荷計となる超伝導単電子素子の並列化の検討などを進めた。 以上のように、計画に基づいて研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、産総研での量子計測三角形実験の実施に向けて、各担当チームでの要素技術開発や素子のスクリーニングテストを推進するとともに、有望な技術の最適組み合わせと実装方法に関して、検討や議論を進めていく。 NTTにおいては、単電子転送の高速動作限界を支配する要因を明らかにし、最適な制御方法や素子構造を実現につなげていく。具体的には、量子ドットの動的操作に起因する電子の非断熱励起と電子・格子相互作用による電子エネルギー緩和等との競合などピコ秒オーダーでの電子ダイナミクスを解明し、転送クロック信号形状の最適化など素子動作の最適化を図る。また、素子のスクリーニングテストにより、並列接続動作による高電流化も目指す 産総研においては、「産総研トライアングルシステム」の構築をさらに進め、0.1 ppmレベルの高精度化へのチャレンジに取り組む。現在まで、その要素技術の開発にほぼ目処がつき、それらの精密検証も終わりつつあるので、さらなる高精度化を実現するとともに、それらの協調・連携動作に取り組む。具体的には、NTT素子の並列動作の検討、10 MΩ量子ホールアレイ作製プロセスの最適化、ジョセフソン電圧標準のトラッキング動作の検証・高周波化などを進める。 電通大においては、2年間で蓄積してきたラテラル型のAlベースの過減衰特性のジョセフソン接合の形成技術を用いて、希釈冷凍温度で動作するAl接合ベースの単一磁束量子回路、超伝導単電子素子の組み込みを進め、高速電荷検出の基盤技術を確立する。量子電流ミラーについては、高誘電率をもつTiO2薄膜を原子層堆積法で形成して強結合したミラー素子を作製し、電流の高精度転写を検証する。
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