研究課題/領域番号 |
18H05263
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
阿部 二朗 青山学院大学, 理工学部, 教授 (70211703)
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研究分担者 |
小林 洋一 立命館大学, 生命科学部, 准教授 (10722796)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | フォトクロミズム / 光化学 / 非線形応答 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
近赤外光に応答するフォトクロミック化合物の開発は、光応答材料の発展に必要な重要な課題である。本研究では、われわれが独自に開発したアリール架橋型イミダゾール二量体を基盤として、近赤外光に応答するフォトクロミック分子や、照射光強度に対して非線形的な応答を示すフォトクロミック分子の開発を目指している。すなわち、日常的な蛍光灯や、観察用の背景光などの微弱光には光反応を示さず、意図して照射した高強度の連続光にのみ応答するような非線形光応答分子の開発が長年の未解決課題として残されている。近赤外光のような低エネルギー光に応答する分子は、HOMO-LUMOギャップを小さくすることが常套手段となっており、電子遷移に関わるパイ共役部位に対する二次元拡張や、電子供与性置換基や電子受容性置換基導入による電荷移動遷移の発現が効果的である。これまでにビナフチル架橋型イミダゾール二量体に様々な電子供与性置換基や電子受容性置換基を導入することで、近赤外光領域に電荷移動吸収帯を誘起し、近赤外光励起による逆フォトクロミック反応を実現してきた。2020年度には、ピレンやペリレンなどの拡張パイ共役アリール基で二つのイミダゾール環を架橋したビアリール架橋型イミダゾール二量体を新たに合成し、それらが近赤外光に高い感度を有することを見いだした。以上に述べたように、これまでの研究で、電荷移動吸収帯や拡張パイ共役を利用することで、近赤外光に応答して逆フォトクロミズムを示すビアリール架橋型イミダゾール二量体の分子設計指針はほぼ確立することができた。これまでに、赤色光の二光子吸収過程を利用した二光子フォトクロミズムの創出にも成功しているが、近赤外応答に関しては二光子フォトクロミズムと比べて近赤外光領域に吸収をもつフォトクロミック分子の逆フォトクロミズムが、変換効率の観点から高い優位性を有していることが明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度には拡張パイ共役を利用することで、当初計画していた近赤外光に応答して逆フォトクロミズムを示すビアリール架橋型イミダゾール二量体の分子設計指針が明らかになった。すでに、2019年度までの研究で高強度赤色パルス光を励起光源として用いた赤色光二光子フォトクロミズムの分子設計戦略は明らかになっていたが、2020年度の研究により、1光子反応である近赤外連続光励起、2光子反応である赤色パルス光励起という2種類の励起モードに対応するための分子設計指針を確立することができた。残る2年間には、励起光強度に非線形的に応答する入力光強度に閾値を有するバイフォトクロミック分子の開発に取り組むが、そのための理論基盤を構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
可視連続(CW)光で作動する非線形応答フォトクロミック分子の開発に継続して取り組む。非線形応答フォトクロミック分子とは、照射する可視光の強度が弱い時には色変化が起きず、照射光強度が閾値以上の場合だけ色変化を起こすフォトクロミック分子であり、世界に類を見ない革新的光応答材料となる。研究戦略としては、一分子内に可視光あるいは近赤外光に応答する二つのフォトクロミック部位を有するバイフォトクロミック分子を基軸として非線形応答フォトクロミズムを達成する。2020年度の予備的な計算化学的研究で、デュアルヒンジ構造を有するバイフォトクロミック分子が明瞭な照射光強度依存性を示す段階的二光子フォトクロミズムに有望であることが示された。デュアルヒンジ構造を有することで、一光子反応で生成した構造異性体が他方のフォトクロミック部位との構造干渉を起こし不安定化されるが、二光子反応で生成する別の構造異性体では、構造干渉が緩和され安定化されることが示唆された。このような、デュアルヒンジ構造の構造干渉を利用したバイフォトクロミック分子は前例がないが、非線形応答フォトクロミック分子の開発戦略としては有望であると考えている。さらに、立命館大学・小林グループが整備したフェムト秒レーザー分光システムを用いて近赤外応答逆フォトクロミック分子の超高速分光を行い、測定で得られる光化学反応初期過程の知見を分子設計にフィードバックすることで、より高い光反応効率を示す近赤外応答逆フォトクロミック分子の開発を目指す。
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