研究課題/領域番号 |
18H05264
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中井 浩巳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00243056)
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研究分担者 |
高野 光則 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40313168)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 光受容タンパク質 / 量子的分子動力学(QMD)法 / 遍在プロトン / バクテリオロドプシン(BR) / FoF1-ATP合成酵素 / 光活性イエロータンパク質(PYP) / GPUアクセラレータ / 励起状態 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、理論およびプログラム開発に関する基礎テーマ(T1), (T2)、基底状態が関与する応用テーマ(G1), (G2), (G3)ならびに励起状態が関与する応用テーマ(E1), (E2)を計画した。このうち、当初計画において2019年度には、(T1) GPUアクセラレータによる長時間シミュレーション手法の開発、(T2) 大規模励起状態シミュレーション手法の開発、(G1) バクテリオロドプシン(BR)のプロトン移動ダイナミクス、(G2) イオン輸送機能を持つ微生物型ロドプシンにおけるプロトン移動ダイナミクス、(G3) FoF1-ATP合成酵素における機能発現ダイナミクス、(E1) 光活性イエロータンパク質(PYP)における光異性化ダイナミクスに着手する予定であった。 (T1)では、単精度・倍精度ハイブリッド型の実装により、GPUアクセラレータを用いた密度汎関数強束縛分子動力学(DC-DFTB-MD)法の更なる高速化を実現した。また、自由エネルギー曲面を効率的に求める拡張サンプリング法とDC-DFTB法を組み合わせた階層的並列計算アルゴリズムの開発を行った。(T2)では、GPUアクセラレータを用いて、DC-TDDFTB法の更なる高速化を図った。その結果、マルチGPUアクセラレータにより大幅な高速化に成功した。(G1)では、BRの5段階のプロトン移動のうち、2段階目の結晶構造を対象としたQMD計算を実行した。その結果、放出基近傍の空隙に出現した水分子が形成する水素結合ネットワーク上のプロトンリレーにより反応が進むことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(T1)では、当初の研究計画通り、GPUアクセラレータに対応したDC-DFTB-MD法のアルゴリズムの改良を行った。特に、前年度に導入した4種類のGPUアクセラレータのうち最も性能が高かったものを追加で導入し、更なる高速化を図った。また、当初の研究計画にはなかったが、前年度に公開したDC-DFTB-MD計算のためのプログラムDCDFTBMDのアップデートを行った。さらに、各種サンプリング法とDC-DFTB法を組み合わせることにより高効率化を図った。これにより、応用テーマ(G1), (G2), (G3)の基盤が確立した。(T2)では、当初の研究計画通り、GPUアクセラレータを用いたDC-TDDFTB法の高速化を行った。これにより、応用テーマ(E1), (E2)の基盤が確立した。また、当初の研究計画にはなかったが、非断熱遷移ダイナミクスを取り扱うための理論的拡張も行った。これにより、翌年度以降に応用テーマ(E1), (E2)に取り組むための基盤をより確実なものとした。(G1)では、翌年度の研究計画を前倒しして、BRの2段階目のプロトン移動を対象としたQMD計算に着手し、反応経路とタイミングに関する新たな知見の獲得に成功した。(G2)では、QMD計算を実行するためにDFTBパラメータの修正を行った。これにより翌年度以降のQMD計算の準備が整った。(G3)では、Fo部位の新構造を用いたCMD計算を再実行する必要が生じたものの、大きな収穫があった。すなわち、これまで説明が困難であったプロトンのリークを誘発する水チャネルが存在したが、新構造を用いた再計算ではそのような水チャネルはなくなった。また、長時間CMD計算によりFoモーターが一方向に回転する描像を捉えることができた。(E1)では、(T2)で開発したDC-TDLCDFTB法を用いて、PYPに対する励起エネルギー計算を実行した。また、当初の研究計画にはなかったが、溶媒中の小分子における分子内励起状態プロトン移動を対象とした励起状態QMD計算を実行し、本手法の有用性を検証した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの進捗・成果・問題点を考慮した結果、本研究はおおむね順調に進展していると判断できた。したがって、2020年度以降も当初の研究計画通り各テーマを遂行する。 (T1)に関して、当初の研究計画通り、すべての開発が完了した。2020年度は応用テーマ(G1), (G2), (G3)の一環として、CPU/GPU版プログラムの更なる高速化や機能の強化を行う。(T2)に関して、当初の研究計画通り、すべての開発が完了した。2020年度は応用テーマ(E1), (E2)の一環として、励起状態計算の並列化効率の改善を図る。(G1)では、当初の研究計画より前倒しで開始していた2段階目のプロトン移動の解析を引き続き行う。また、これまでの結果をすべてまとめ上げ、トップジャーナルへの投稿を目指す。(G2)では、ChR2/KR2の結晶構造を対象としたCMD計算およびQMD計算を実行し、イオンの輸送経路上に位置するAsp/Gluのプロトン脱着とイオン輸送機能との相関を解明する。その際、(G3)におけるCMD計算、(G1)におけるQMD計算のノウハウおよび2019年度に修正したDFTBパラメータを活用する。(G3)では、引き続きCMD計算によるプロトン伝導機構およびリング回転運動の更なる解析を行う。回転角を反応座標とする自由エネルギー地形を解明するため、CMD計算による大規模なumbrella samplingも続行する。Gluの荷電状態の変化によって自由エネルギー地形がどのように変化するのかを調査し、Fo回転を駆動するブラウニアン・ラチェット機構の解明を目指す。(E1)では、当初の計画通りPYP全系を対象とした励起状態QMD計算を実行し、その光異性化過程の微視的機構を解明する。その際、(T2)で開発した励起状態計算手法DC-TDDFTBを活用する。2020年度より、(E2)を開始する。(E1)と同様に、BR全系を対象とした励起状態QMD計算を実行し、その光異性化過程の微視的機構を解明する。
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