研究課題
ストリゴラクトン(SL)生合成阻害剤の開発に加えて、SL受容体のリガンド認識機構・活性発現機構、そして植物ホルモン間クロストークによりSL機能を制御可能なジベレリンやエチレン両ホルモン受容体の認識機構を、新規リガンド開発と結晶構造学を中心に解明することで、根寄生雑草Striga hermonthica制御技術開発基盤の構築と展開を行うと同時に、併せて創製したジベレリン(GA)やエチレン制御剤のStriga制御への応用展開についても検討を行った。Strigaの寄生を防ぐために、1)作物生産性に影響を与えることなく宿主作物内SL生合成を阻害する寄生雑草発芽・寄生制御剤、2)Striga種子をSL受容体アゴニストとして宿主作物の存在しない状態で発芽させ寄生させずに枯死させる自殺発芽誘導剤、3)Striga種子のSL受容体特異的阻害剤、を研究対象として農業への応用を目指した基盤構築と開発研究を行った。1)についてはTIS108が作物形態に影響を与えない理由を作用部位の特定を通して解明した。続いてこの作用部位のノックアウト体をゲノム編集技術で作成することで4員環性SL欠損体になること、また形態変化しないこと、そしてAM菌の共生を妨げないことを示した。この結果は植物体における4員環性SLの植物ホルモンとしての機能に疑問を提示するものである。2)については前年度までに開発した化合物の圃場試験を行うことで、防除効果を確認し論文化した。3)については共有阻害剤と受容体の共結晶を論文化した。新規高活性型エチレンアゴニストを発見し、エチレン受容体との共結晶を目指し精製したエチレン受容体と化合物の結合を確認中である。またStriga発芽をGAが弱く促進することを見出した。活性が弱い理由はStriga中GA受容体へのGA親和性が低いためと考えて受容体タンパク質を精製中である。
2: おおむね順調に進展している
ストリゴラクトン(SL)生合成阻害剤であるTIS108は宿主であるイネ、ソルガム、トマトの形態に影響を与えることなく、SLの生合成を阻害し根寄生雑草の寄生を抑制できる化合物である。本年度はこの形態変化を伴わない理由について追究を行い、イネのSL生合成に関わるチトクロームP450であるMAX1の3つのホモログの2つの活性を阻害し4員環性のSL生合成を阻害することを示した。続いてこの標的部位遺伝子のノックアウト体イネを作出しその形態がやはり変化しないことを確認した。この結果はSLが植物ホルモンでなく、変異体に置いても内生量が大きく変わらないカーラクトン酸類縁体が植物ホルモンである可能性を示すという点でインパクトの大きい成果である。現在論文投稿中である。またTIS108より活性の高い生合成阻害剤であるKK55に続き更に活性が10倍高い化合物の開発に成功した。この化合物の作用部位についても追究したところTIS108と同様の作用部位を持つことを確認できた。エチレンアゴニストの開発については新規化合物を発見しそのエチレン受容体への結合を検討できる状況まで順調に推移している。この点は予定よりやや遅れているが、世界で誰も成功していない試みであり、進展したことは評価できる。また化合物スクリーニングによりエチレン阻害剤を見出すことはできたもののその活性は低い状況である。Strigaにおいてジベレリンは発芽促進しないとの報告であったが、精査によりジベレリンが発芽促進することを見出した。そこでStrigaにおけるジベレリン受容体のクローニングとタンパク質発現を試み、そのジベレリンへの親和性を調査中である。また新規なジベレリンアゴニストDIPAを発見し、DIPAがSL生合成を抑制することを確認している。ただしDIPAの活性はジベレリンの1/1000程度と低く、高活性化を図る必要がある。
ストリゴラクトン生合成阻害剤はSLアゴニストと比較して圧倒的に安定であり、かつ種子のコンディショニングや自殺発芽期間を必要としないことから、降雨に頼るアフリカ農業には適している。この利点を活用した現場に適した処理方法を考案する必要がある。またゲノム編集ノックアウト体については適用穀物を広げてその形態や根寄生雑草の寄生状況について調べていき応用可能性を示していきたい。またD環を持たないことから安定性が高くかつ活性の高いSLアゴニスト創製のヒントを掴むことに成功したので、アフリカの農業事情に則した自殺発芽誘導剤の開発を試みる予定である。エチレンアゴニストのプローブ化については、高活性型エチレンアゴニストを取得できたので、この構造活性相関を追究することで、プローブ化する部位を決定し合成できる状況になった。またエチレン受容体阻害剤については、スクリーニングにより見出すことに成功し、続いての構造活性相関情報も得ることができた。今後はエチレン受容体への結合をアゴニストと同様に調べていく予定である。また根寄生雑草被害防除への適用可能性についてイネを用いてポット試験を行う予定である。エチレンアゴニストの場合と同様に適用可能性があると考えている。ジベレリンがStriga発芽を促進することを見出した。そこで4つの受容体をクローニングしタンパク質発現を試みている。ITCを用いることで受容体への結合親和性を調べていく予定である。将来的にはStrigaジベレリン受容体に対して親和性の高いジベレリンアゴニストの開発を行うことで新しい戦略であるStrigaジベレリン受容体の活性化による自殺発芽の促進を達成できる。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 6件、 オープンアクセス 11件、 査読あり 12件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (3件)
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