研究課題/領域番号 |
18H05266
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浅見 忠男 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (90231901)
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研究分担者 |
永田 宏次 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30280788)
伊藤 晋作 東京農業大学, 生命科学部, 准教授 (70608950)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 根寄生雑草 / ストリゴラクトン受容体 / α/β-hydrolase / ShHTL2/3 / ShHTL1 / 受容体阻害剤 / 共有結合阻害剤 / 成長抑制 |
研究実績の概要 |
本研究では、世界的に広がる根寄生雑草の中で主としてStrigaによる農業被害を低減するための植物ホルモン制御技術開発基盤を構築することを目的としている。目的達成のために1)発芽を抑制するための宿主中のSL 生合成阻害技術の開発と、2)Striga 中のSL 受容体と似た性質をもつShHTL1, ShHTL2, ShHTL3の人工リガンド・アンタゴニストというケミカルプローブの創製とこれらケミカルプローブを用いたリガンド認識機構・活性発現機構の追究、を行うことでStriga 制御技術開発基盤の構築と展開を目指した。 1)2022年度に論文発表した実用化が期待できるSL生合成阻害剤TIS108より強力な阻害剤を新たに開発した。TIS108は四環性SL生合成のみを阻害し、懸念された形態変化やAM菌共生への影響なしに根寄生雑草防除効果を示すことを明らかにしているが、開発した新規化合物も同様の性質を持つことを確認できた。以上よりTIS108の結果と合わせ、四環性SLは根圏機能物質であり、イネにおいては二環性SLが植物ホルモンとしての主体であると提唱できた。2)また、ShHTL1ならびにShHTL2/3各々に選択的な共有結合阻害剤を見出すことに成功した。この阻害剤と同じく開発した上記受容体のアゴニストを用いることで、ShHTL1は発芽後の成長に、ShHTL2/3は給水後の発芽準備に関係していることを明らかにした。以上の成果は根寄生雑草被害低減のための新しい基礎的な技術基盤となる。 なおこの研究は2021年度分の経費を2022年度に繰り越して行われた部分の成果であり、2022年度分の経費を用いて得られた成果とは一部重複があるものの基本的には新しく展開できた研究により得られた成果である。 なお成果部分については2022年度の成果として、2022年度分報告書に記載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
既存のオリジナルなストリゴラクトン生合成阻害剤の活性を数十倍上回る特異的な新しいストリゴラクトン生合成阻害剤を見出すことに成功したことは予期していない成果である。TIS108が30 g/ha程度の有効薬量であったので、既存農薬最高活性レベルである1 g/haで十分な効果を示す新規ストリゴラクトン生合成阻害剤は、環境面からも費用面からも高く評価できる。実用化に一層近づくことが可能になった化合物であると考えている。またこれまで根寄生雑草被害の化学的低減方法としては自殺発芽剤が有望と考えられてきたが、我々が提唱してきたストリゴラクトン生合成阻害剤は自殺発芽誘導剤の欠点であるコンディショニング期間の必要性や構造の不安定性という問題を克服できる点から相補的であると考えている。 一方、自殺発芽剤であるストリゴラクトンアゴニストはStrigaのShHTL4-11の受容体に効果を示すがShHTL1-3の機能については不明であった。今回、ケミカルバイオロジー的手法を使うことによりShHTL1-3のStriga生活環における機能を示すことができた。またこの機能の制御によりStriga被害を低減することが可能となる新しい化学的対処法を提案できたことは、不明であった受容体の機能解明と合わせて予想以上の成果となった。
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今後の研究の推進方策 |
本報告書部分は2022年度に繰り越した経費による成果であり、本研究は2022年度に終了している。しかし、本研究プロジェクトにより見出した多様な化学的ツールを用いて、更に根寄生雑草被害低減のための新しい戦略からの研究が推進可能となった点が評価できる。今後はこれら化合物を基礎ならびに応用研究に用いることにより、化学的な根寄生雑草被害防除研究の進展を図ることが可能である。
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