研究課題
本年度は、マウスのプライマーフェロモンのHPLC精製・LCMS解析による構造決定を試みた。様々な分析化学的手法により、これまでに哺乳類で報告されたフェロモンとは大きく物性の異なる分子であることが示唆された。限外濾過では3 kDaよりも小さい画分、メタノール添加では沈殿せず、アセトン添加により沈殿した。疎水性のODSカラムには緩く保持され、親水性のカラムには比較的強く保持された。限外濾過、有機溶媒沈殿、固相抽出、5種類のHPLC精製を経て、同様に精製をした去勢雄尿、雌尿由来画分とのLCMS解析結果の比較により、現在、有力な候補を得ている。また、プライマーフェロモンは鋤鼻器官を介して脳に伝わることがわかっているので、フェロモンによって活性化した鋤鼻細胞と受容体遺伝子との二重染色をすることにより、鋤鼻受容体V2Rファミリーのなかから受容体候補を絞り込んだところ、あるひとつの受容体が同定された。そして、CRISPR-Cas9システムを用いて、同定した受容体遺伝子のノックアウトマウスを作製することに成功した。一方、妊娠阻害フェロモン現象の原因物質のひとつであるESP1が、視床下部弓状核を活性化するかどうか検討を試みたが、弓状核ドーパミン神経の特異的な標識がうまくいっていない。また、ヒトに関しては、月経周期内の各ステージに特有な匂い物質を得たので、被験者に対して、自律神経系およびホルモンの変化の測定、脳波測定と脳内信号源推定をおこなう条件検討をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、性成熟、発情を促進するプライマーフェロモンのリガンドとして、雄尿中の候補分子の精製ステップが確立し、あとは大量精製による構造決定の段階にきている。
現在までに、性成熟、発情を促進するプライマーフェロモンのリガンドとして雄尿中の候補分子が絞られたので、大量精製をして構造決定および機能解析を行う。並行して、受容体ノックアウトマウスの表現系の解析をおこなう。また、受容体発現神経を操作するためのマウスを作出する。ヒトフェロモンプロジェクトに関しては、月経周期の各段階に特異的に見出された化合物を調整し、それらの化合物を嗅いだ際の女性の脳の反応を計測する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Nature communications
巻: 10 ページ: 4560
10.1038/s41467-019-12478-x
Nature Communications
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10.1016/j.neures.2018.10.009