研究課題/領域番号 |
18H05270
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上田 泰己 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (20373277)
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研究分担者 |
洲崎 悦生 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (10444803)
大出 晃士 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (40612122)
史 蕭逸 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (40803656)
山田 陸裕 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 上級研究員 (90469924)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 可逆的リン酸化 / 振動子 / 概日時計 / CKI / 変異マウス作製 |
研究実績の概要 |
本研究では、CKIδ/εを中心として、概日時計タンパク質が有する可逆的リン酸化制御機構の詳細な解析とマウス個体での表現型解析を用いてCKIファミリーを用いて可逆的リン酸化振動体を設計し、さらに生体リズム振動体一般の理解を目指すことを目指す。初年度である平成30年度は、基盤的な測定系の確立に注力した 【1. CKIδ/ε脱リン酸化活性制御機構の解明】 CKIδ/εの基質となるタンパク質領域に着目し、一連のペプチド基質、リン酸化ペプチド基質を合成した。リン酸化ペプチドの一部は適宜マイクロウェーブを用いた高効率なペプチド合成を行った。また、合成したぺプチドとCKIδ/εおよび、CKIδ/εの酵素活性を測定するために蛍光ラベルを与えた酵素活性測定用の基質を混合し、モビリティシフトアッセイによって酵素活性を測定する実験系を構築した。 【2. CKIδ/ε脱リン酸化活性の個体レベルにおける意義の検証】 胚性致死となるCKIδについても、マウス個体で変異CKIの機能解析を行うために、ES細胞に対してCRISPR/Casを導入し遺伝子ノックアウトを行う手法の導入を行った。また、今後見出されることが期待されるCKIδ/εの酵素活性制御に関与するリン酸化サイト等に変異を導入するためCRISPR/Casと一本鎖DNAを用いて内在性遺伝子にアミノ酸置換変異を導入する手法をセットアップした。また、内在性タンパク質のリン酸化変動を検出するために、質量分析法のセットアップを行った。 【3. CKIファミリーを用いた可逆的リン酸化振動体の設計】 CKIδの脱リン酸化活性を取り込む形で、多重リン酸化基質と可逆的リン酸化酵素を用いて自律振動が惹起される際の数理モデル化を行い、基質と酵素の相互作用様式によっては自律発振が生じる例があることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リン酸化ペプチド基質を用いてCKIδ/εの酵素活性制御機構を構成的かつ網羅的に調べる戦略については、ペプチド合成やCKIδ/εの活性測定系の双方について順調に立ち上がっており、計画通りの進行である。 また、マウス個体での表現型解析に向けて、これまで代表者らが開発してきた遺伝子ノックアウト技術を応用発展させES細胞に転用する目途が立った。さらに、内在性遺伝子にアミノ酸置換を導入できるようになりつつあり、これらも計画通りの進展と言える。 理論的な見通しとしても、同一酵素がリン酸化と脱リン酸化を双方触媒するような場合でも、基質がそのリン酸化状態に応じて酵素をアロステリックに制御する場合には自律振動を生じる例があることが見出された。このように単一酵素が可逆的リン酸化を担うようなセッティングは、一般的な酵素反応モデリングでは採用しないことが多いため、実験結果に基づいて数理モデリングの着想を得ている本研究の独自性が活きている。 質量分析計を用いたリン酸化変動の検出については、以下に述べる予期された問題に直面したが、多くの工夫によって計画を進めることができた。まず、質量分析計について配分額で購入可能な最上位機種(申請時点の計画機種からスペックを落としたもの)のスペックを慎重に検討した結果、本研究計画で目指す測定感度およびリン酸化サイトの同定力に十分ではないと判断された。そこで、代表者が有する旧式の分析計の再整備と解析アルゴリズムのアップデートを行った。さらに、年度途中から研究分担者を追加し、分担者の有するリン酸化サイトの同定に適した異なる質量分析計を活用可能な体制を整えた。これにより、リン酸化サイトの同定力については、多様な測定手段を活用することができる体制を整えた。一方で、検出感度の向上については、サンプル調整にかかる生化学的な工夫が要求されており、次年度に取り組むべき課題である。
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今後の研究の推進方策 |
【1. CKIδ/ε脱リン酸化活性制御機構の解明】 整備したペプチドライブラリーを用いて、実際にCKIδ/εの活性をリン酸化状態依存的に制御する基質を探索する。また、CKIδ/εによる基質リン酸化動態の詳細には基質の立体構造が関与する可能性があるため、全長基質の精製に着手する。まずは結晶構造が明らかとなっており、精製基質のフォールディング状態等が評価しやすいCRYを対象に全長タンパク質の精製を行う。 【2. CKIδ/ε脱リン酸化活性の個体レベルにおける意義の検証】 導入したES細胞に対する遺伝子ノックアウトや、内在性遺伝子へのアミノ酸置換変異導入技術を実際に運用する。特に、計画1.でCKIδ/εの活性制御に関わるリン酸化サイトが同定された際に、速やかにその個体レベルでの意義を検証するため、内在性遺伝子に1アミノ酸置換点変異の導入を行う条件を確定させる。また、質量分析計を用いたリン酸化変動について、検出感度の向上を生化学的に達成するため、リン酸化ペプチドの高度な濃縮と分画を行う。加えて、内在性遺伝子にタンパク質精製濃縮用のタグ配列を挿入する遺伝子改変条件を確定させ、免疫沈降等の手法によって測定対象の内在性タンパク質を精製濃縮することを試みる。 【3. CKIファミリーを用いた可逆的リン酸化振動体の設計】 同一の酵素がリン酸化と脱リン酸化を触媒する場合に自律振動が惹起される際の網羅的なパラメータ探索を行い、発振に必要な基質と酵素のアロステリックな制御様式を定性的に明らかにする。これにより、計画1で見出されることが期待される、CKIδ/εの酵素活性を制御するリン酸化ペプチドが、自律発振に寄与する際のメカニズムを理解する見通しを提供する。
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