研究課題/領域番号 |
18H05271
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
泊 幸秀 東京大学, 定量生命科学研究所, 教授 (90447368)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | piRNA / PIWI / 反応場 / ミトコンドリア / Zucchini / Trimmer |
研究実績の概要 |
カイコ卵巣由来のBmN4細胞は、piRNA経路を完全に保持した培養細胞として、piRNA研究において、非常に有用なツールとして世界中で使われてきている。これまでのところ、BmN4細胞では、RNA干渉による遺伝子ノックダウンの手法が良く用いられてきたが、残留する酵素活性をどのように解釈するかという点において曖昧性が残されていた。我々は、CRISPR/Cas9のシステムをカイコBmN4細胞に適用し、piRNAの生合成に必要な因子をノックアウトする手法の開発に成功した。この手法を用い、piRNA生合成の最終過程において、pre-piRNAと呼ばれる前駆体の3'末端を削り込み、成熟体piRNAを作り出すエキソヌクレアーゼTrimmerをノックアウトしたBmN4細胞を作出したところ、予想通り成熟体piRNAの生成はほとんど見られず、代わりにpre-piRNA様の長さの小分子RNA種が蓄積する様子が観察された。また、TrimmerノックアウトBmN4細胞から、ミトコンドリアを含む画分を調製し、長い一本鎖RNAをカイコのPIWIタンパク質の1つであるSiwiに取り込ませた状態のものに対して、試験管内で反応させると、pre-piRNA様の長さの切断産物が生成するということも確認された。これは、pre-piRNAのさらに上流の前駆体と考えられているpre-pre-piRNAから、ミトコンドリアという「反応場」上に存在する何らかのエンドヌクレアーゼ活性によってpre-piRNAが生成する過程を試験管内で正確に再現できている可能性を示唆している。また、PIWIタンパク質を含むArgonauteファミリータンパク質について、小分子RNAを取り込む際の構造変化を一分子レベルで捉えること、また、積極的な分解によって品詞管理を行う仕組みを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、カイコBmN4細胞では、RNA干渉を用いたノックダウン実験の結果に基づいて、piRNA生合成過程のモデルが提唱されてきたが、残存する酵素活性の解釈の違いにより、一見矛盾した複数の結論が得られてきていた。今回、CRISPR/Cas9を用いることによりTrimmerノックアウトしたBmN4細胞の作出に成功したことは、これまでの矛盾を解消し、統一的なモデルを提唱できるための足がかりとなるものである。また、TrimmerノックアウトBmN4細胞において、pre-piRNA様の小分子RNA種の蓄積が確認されたこと、さらにはTrimmerノックアウトBmN4細胞のミトコンドリアを含む画分に、pre-pre-piRNAからpre-piRNAを切り出す活性が確認されたことは、piRNA生合成経路の過程において、残されていた最も大きな謎の1つである「Pre-pre-piRNAを切断しpre-piRNAを生み出している因子は何なのか?」という問いに対する明確な答えを与えるための下準備が整ったことを意味している。
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今後の研究の推進方策 |
TrimmerノックアウトBmN4細胞において蓄積が見られたpre-piRNA様の小分子RNA種については、次世代シーケンサーを用いた大規模な配列情報の取得と、その生物情報学的解析を進めることによって、これらの小分子RNA種が本当にpre-piRNAなのか、もしそうだとすると、それらにはどのような特徴があるのか、また、それらを作り出しているものはどのようなしくみなのか、ということに対する答えを得る。また、TrimmerノックアウトBmN4細胞のミトコンドリアを含む画分に存在することが確認されたpre-pre-piRNAからpre-piRNAを切り出す活性については、詳細な生化学的解析を行い、この切断活性を担う因子の同定や、切断反応の配列特異性などを明らかにする。このように、生物情報学的アプローチと生化学的アプローチを、同時並行的に推進し、それらをうまく組み合わせることによって、ミトコンドリアという「反応場」で起こるpiRNA生合成の一過程を正確に理解する。
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