研究課題/領域番号 |
18H05273
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
蟻川 謙太郎 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20167232)
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研究分担者 |
松下 敦子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 講師 (50450416)
木下 充代 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (80381664)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 昆虫 / 色覚 / 視細胞 / 視葉板 / 波長対比性 |
研究実績の概要 |
私たちは、昆虫の色覚神経機構とその進化に関する研究の一環として、視葉板における視細胞間シナプスに着目している。視細胞間シナプスは恐らく抑制性で、ナミアゲハで我々が初めて発見したものである。優れた色覚をもつアゲハは色覚研究のモデル種で、複眼には分光感度の違う6種の視細胞がある。視細胞が抑制し合うと何が起こり、二次ニューロンLMCには何が伝達されるのか?このシナプスはショウジョウバエの視葉板にはない。ハエでは視葉板に入る視細胞の分光感度がみな同じで、視葉板と色覚の関係が薄いためと考えられる。本研究では、アゲハの視細胞間シナプスは色覚神経機構の重要な要素と考え、視葉板における波長情報処理の機構を詳しく調べている。アゲハについては、1)視細胞の波長対比性と、2)LMCにおける波長情報処理を、また色覚の進化を解明するために、3)視葉板回路の比較研究も進めている。 1)については、8種の波長対比性の反応を同定し記載的論文を出版した。2020年度は2)と3)に主力を傾注した。2)では、視覚第二次中枢(視髄)における長視細胞(軸索を視髄まで伸ばす視細胞。個眼当り2細胞)およびLMC(個眼当り4細胞)の末端形態を、解剖学的に同定した。長視細胞には末端部の突起が多いものと少ないものがあること、個眼当り4つのLMCは、それぞれ視髄で異なる末端形態をもつことがわかった。この知見に基づき、電気生理実験で形態と分光感度の対応付けを行った。結果、突起の多い長視細胞は紫外あるいは紫感受性、少ないものは青感受性である可能性が示唆された。LMCについては未だ例数が少なく、追加実験を要する。3)については、モンシロチョウ、ヒトスジシマカ、ツチイナゴから視葉板カートリッジの連続電子顕微鏡画像を取得した。このほか、本研究を進める過程で新たに発見した高次中枢の動き知覚ニューロンにおける色反応特性の解析も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生理学、分子生物学、解剖学の実験は順調に進展している。 本研究に100%のエフォートで参画するポスドクを新たに雇用した。新しいポスドクは主として視葉板における電気生理実験に従事している。昨年に新しく発見した動き感受性ニューロン反応の波長依存性については、記録例を増やした結果、その性質がほぼ明らかになった。現在、論文を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で推進する研究項目は、1)視細胞波長対比性、2)LMCにおける波長情報処理、3)視葉板カートリッジ構造の多様性である。1)と2)については引き続き、電気生理と遺伝子編集の方法で実験を進める。これまで3年にわたって、CRISPR-Cas9法でチャネルをノックアウトしたアゲハの系統を確立することを試みてきた。しかし、F2に到達することなく死滅する事態に直面している。これは実験個体の世代時間が長くなる傾向があると共に、飼育時の感染に弱いことが主因と考えている。本研究で対象にしている遺伝子については、仮に系統が確立されても、その維持は極めて困難と判断した。そこで、G0またはF1世代でできるかぎりの解析を行う方向で検討している。現在はG0個体の視葉板回路の実体を解剖学的に調べている。2)では、昨年見つかった動き知覚の色感受性にも焦点を当て、色覚系の広い理解を目指す。3)ではSBF-SEMでアゲハ以外の昆虫の視葉板構造も調べている。私が得た画像を海外の研究者が解析する共同研究を始めたこともあり、今後の加速が期待される。
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