研究課題/領域番号 |
18H05274
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松林 嘉克 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00313974)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | ペプチドホルモン / シロイヌナズナ / 受容体キナーゼ |
研究実績の概要 |
植物の成長制御に関わる新しい分子群として,内生の分泌型ペプチドホルモンや篩管移行性の非分泌型ペプチド,病原微生物由来の外生ペプチドなどに注目が集まっている.本研究は,ペプチドシグナルの探索や,受容および細胞内情報伝達機構の解明を進め,植物成長の新しい分子機構を明らかにすることを目的としている. 1.分泌型ペプチドホルモン:LRR-RKサブファミリーXIに残された3つのオーファン受容体が,硫酸化ペプチドPSYの認識に関わっていることを突き止め,成長とストレス応答との切り替えに関わることを明らかにした.成果はリバイス中である. 2.篩管移行性非分泌型ペプチド:CEPD/CEPDL2ペプチドはシロイヌナズナで21個の遺伝子からなるファミリーを形成しているが,その中にCEPDとは逆に過剰発現で窒素吸収を抑制する分子群を見出している.多重欠損株と高発現株を作製してCEPDシグナリングとの関係を調べている. 3.外生ペプチドシグナル:植物は,バクテリアべん毛由来のフラジェリンタンパク質中のエピトープペプチドflg22をリガンドとして受容体FLS2を介して認識し,防御応答を活性化させるシステムを持っている.この際,flg22をフラジェリンから切り出すのは植物側の複数のプロテアーゼであるが,C末端側の切り出しに関わる2種類のsubtilaseを生化学的に同定した.2重欠損株では,flg22の切り出し活性が低下することが確かめられたため,病害抵抗性への影響を精査している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分泌型ペプチドホルモンの機能解析については,新しいリガンド―受容体ペア(PSY-PSYR)を見出したことで,最大の目的は達成されつつある.論文リバイスを進めつつ,受容体下流の情報伝達経路の解析にも着手している.15Nを用いた安定同位体標識法による定量リン酸化プロテオミクスの系により,RGF,PSK,CIF,CEP,PSYなどのペプチドホルモンの下流で,短時間でリン酸化される初期応答タンパク質群を複数同定した.それぞれについてリン酸化部位のアミノ酸置換体を作製し,ペプチドに対する感受性や表現型の変化を解析している.定量リン酸化プロテオミクスの系はペプチドホルモン初期応答タンパク質群の解析の強力なツールになっている.地上部の篩管特異的ペプチドについては,21種類あるCEPDホモログの中に,CEPDとは逆に,植物体の窒素充足度に応じて窒素吸収を抑制する分子群を見出している.すなわち,植物の窒素恒常性の維持には、CEPDを介した窒素欠乏応答に加えて窒素吸収の抑制メカニズムも関わっていることを見出した点は,新しい概念の提唱につながる発見である.外生ペプチドシグナルについては,flg22を切り出すのは植物側の複数のプロテアーゼを生化学的に同定した.多重欠損株を作成し,その病害抵抗性を評価している.
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今後の研究の推進方策 |
分泌型ペプチドホルモンの機能解析については,LRR-RKサブファミリーXIに残された3つのオーファン受容体が,硫酸化ペプチドPSYの認識に関わっていることを突き止め,成長とストレス応答との切り替えに関わることを明らかにした.成果はリバイス中であるため,アクセプトへ向けて詰めの実験を進めていく.また,リン酸化変動プロテオミクスにより,RGF,PSK,CIF,CEP,PSYなどのペプチドホルモンの下流で,短時間でリン酸化される初期応答タンパク質群を複数同定できているため,これらの機能解析も個々に進めていく予定である.篩管移行性非分泌型ペプチドについては,CEPDとは逆に過剰発現で窒素吸収を抑制する分子群を見出したため,これらの機能解析やCEPDとの関連性を調べていく.flg22をフラジェリンから切り出す植物側のプロテアーゼについては,論文化に向けた生理実験を進める.
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