植物の成長制御に関わる新しい分子群として,内生の分泌型ペプチドホルモンや篩管移行性の非分泌型ペプチド,病原微生物由来の外生ペプチドなどに注目が集まっている.本研究は,ペプチドシグナルの探索や,受容および細胞内情報伝達機構の解明を進め,植物成長の新しい分子機構を明らかにすることを目的としている. 1.分泌型ペプチドホルモン:LRR-RKサブファミリーXIに残された3つのオーファン受容体が,硫酸化ペプチドPSYの認識に関わっていることを突き止め,成長とストレス応答との切り替えに関わることを明らかにした.PSYは普段は恒常的に発現しているが,細胞がダメージを受けて機能不全になった領域ではPSY濃度が低下する.PSY受容体はPSYが結合している時は非活性の状態であるが,PSY濃度が低下して解離すると活性化されるため,ダメージを受けた領域の周辺でストレス応答が誘導される.この成果はScience誌に掲載された. 2.篩管移行性非分泌型ペプチド:窒素欠乏になると葉でつくられ根に移行して窒素吸収を促進するCEPD/CEPDL2ペプチドに加え,窒素十分時に葉でつくられ根に移行して窒素吸収を抑制するGrxS1-S8ペプチドが見出された.両者が拮抗して作用することで,窒素恒常性が保たれている. 3.外生ペプチドシグナル:植物は,バクテリアべん毛由来のフラジェリンタンパク質中のエピトープペプチドflg22をリガンドとして受容体FLS2を介して認識し,防御応答を活性化させるシステムを持っている.このflg22の切り出しに関わる2種類のsubtilaseを生化学的に同定した.2重欠損株では,flg22の切り出し活性が低下し,防御応答が遅延することを明らかにした.この成果はNature Communications誌に掲載された.
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