研究課題/領域番号 |
18H05275
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中野 明彦 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 副センター長 (90142140)
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研究分担者 |
黒川 量雄 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 専任研究員 (40333504)
戸島 拓郎 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, 上級研究員 (00373332)
植村 知博 お茶の水女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 准教授 (90415092)
須田 恭之 筑波大学, 医学医療系, 助教 (10553844)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 膜交通 / ゴルジ体 / 選別輸送 |
研究実績の概要 |
酵母細胞を用いた研究:①ゴルジ体cis槽による積荷の受け取り。積荷を受け取るcis槽と槽成熟に向かうcis槽との違いを、ライブイメージングによって解析した。小胞体出口ERESにおけるCOPII被覆のアセンブリーを詳細に解析した。②ゴルジ槽間での積荷の受け渡し。積荷が槽から槽へと移動する様子を4Dで捉え、またその際の槽内ドメインの動態を解明した。この槽成熟の過程で、TGNまで到達した積荷の一部が、一時的に前の区画に送り返されるような現象も見出した。(J. Cell Biol. 誌発表)③TGNでの仕分けの時空間的制御。TGNにおける被覆タンパク質とアダブター複合体の集積・離散を時空間的に解析した。(J. Cell Sci. 誌発表) 植物細胞を用いた研究:①ゴルジ体初期区画GECCOによる小胞体からの積荷の受け取り。ゴルジ体の最もcis側の区画(GECCO)の、生化学的な研究を進めた。分子装置の候補を同定し、解析中である。②ゴルジ体層板内での積荷の輸送。植物のゴルジ層板について、SCLIM2の時空間分解能を駆使した観察を行った。③TGNでの複数経路の仕分けの時空間的制御。さまざまな被覆タンパク質およびアダブター複合体がTGNで集積・離散するダイナミクスを時空間的に解析した。AP-1とAP-4が異なるゾーンに集積することを示した。(投稿中) 動物細胞を用いた研究:①小胞体-ゴルジ体中間区画ERGICによる小胞体からの積荷の受け取り。ERGICの挙動について、SCLIM2による解析に着手した。②ゴルジ体層板内およびTGNでの積荷の輸送。これまでリサイクリングエンドソームと認知されていた区画が、ゴルジ体から独立して挙動するTGNとほぼ同一のものであることを示した。③神経軸索におけるゴルジ体の役割。神経軸索成長円錐を観察し、ここにもゴルジ体が存在して機能していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
酵母のゴルジ槽間の積荷の受け渡しについては、SCLIMを駆使して複数のゴルジ槽と積荷と4Dで観察し、槽成熟の過程で確かに積荷がcisからtransへ、そしてさらにTGNへと移動していることを示すことができた。われわれが2006年にNature誌に発表したゴルジ体の槽成熟が、確かに積荷輸送のメカニズムであるという証明を完了した。さらに、その槽成熟の過程で、TGNまで移行した積荷がそれより前の槽に戻る現象も発見した。ゴルジ体の輸送過程における「品質管理」という、これまでにはなかった新しい概念を提唱した。(J. Cell Biol.) 植物と動物のゴルジ体に関する研究も順調に進んでいる。TGNについて、ゴルジ体以降の膜輸送過程の重要なハブとして機能している独立のオルガネラと考えられる証拠として、ゴルジ層板から離れて存在するTGNが、これまでリサイクリングエンドソームと認識されていた区画とほぼ同一のものであることを示した。RE = TGNという新しいパラダイムが築かれる可能性がある。(広島大学佐藤博士らとの共同研究) 稼働を開始した次世代SCLIM機,SCLIM2KとSCLIM2Mの威力が素晴らしく、とくにSCLIM2Mでは、単一光子計測とガウス分布フィッティングによるノイズの除去,高速4D撮像データに対して自ら開発した光点分布再構成アルゴリズムを適用することにより、驚異的な時空間分解能を達成した。例えばTGNから形成されるクラスリン小胞の1個1個を3D空間で追跡することが可能になった。このような圧倒的なスペックをもつライブイメージング顕微鏡を手にしたいま、全てが想定を超える新しい成果である。
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今後の研究の推進方策 |
生きた細胞内の小胞輸送をありのままに目で見る、というわれわれが夢にまで見た技術がついに実現できている。予定した研究計画通り、異なる生物種のゴルジ体とその周辺オルガネラについて、徹底的な観察を行い、従来の生化学や遺伝学の実験結果に基づいて想像されていたモデルを一つ一つ検証していく。以下のような問題に特に重点を置いて取り組み、世界をあっと言わせるデータと教科書を書き換えるモデルをどんどん発表していく。 酵母細胞を用いた研究:①ERESに対するcisゴルジのhug-and-kissの際の積荷と輸送装置の相互作用。②ゴルジ体およびTGNにおける「品質管理」機構の検証。③ゴルジ体のcis端からTGNまでの一連の輸送過程を時空間的にシームレスにマッピング。 植物細胞を用いた研究:①ゴルジ体初期区画GECCOを特徴づける分子の同定と機能検証。②ゴルジ体に近接して働くTGNと独立して働くTGNの機能の違い。③TGNでの複数経路の選別におけるアダプター分子の機能分担とエンドソームの役割。 動物細胞を用いた研究:①RUSHシステムと多色SCLIM2による4Dライブイメージング。②神経軸索におけるゴルジ体およびTGNの存在の証明。③軸索ガイダンスにおけるゴルジ体とTGN機能の解明。新しい光遺伝学ツールの活用。 SCLIM技術に関しては、我々が独自に開発したアルゴリズムできわめて高い時空間分解能が達成されることについて、理論的検証および実験的検証を精密に行い、世界に公表する。
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