研究課題/領域番号 |
18H05278
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹内 理 京都大学, 医学研究科, 教授 (10379092)
|
研究分担者 |
植畑 拓也 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (50785970)
三野 享史 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (60646149)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
|
キーワード | 自然免疫応答 / mRNA制御 / mRNA分解 |
研究実績の概要 |
1. mRNA 3’ UTRを介した免疫細胞時空間制御機構の解析 Regnase-1による炎症の時間的制御に関して検討を行い、Regnase-1が翻訳の初期段階において標的mRNAを認識し、UPF1によるmRNAの構造変化に伴って切断することで、素早くサイトカイン産生を調節していることを見出した。また,翻訳終結に伴いSMG1によるUPF1のリン酸化が誘導され、これに依存してRNA分解がおこることを明らかにした。SMG1のキナーゼ活性を阻害剤で抑制することで,樹状細胞の成熟を促進し,T細胞活性化能を亢進させた(Nucleic Acids Res)。本研究の成果は,新たな免疫賦活化法の開発につながることが期待される。 また抗HIV-1効果をもつRNA結合蛋白質の解析から、核内に存在するRegnaseファミリー分子N4BP1が、HIV-1感染標的細胞でウイルスmRNAと結合、分解し、HIV-1感染を抑制することを見出した。しかし、活性化CD4陽性T細胞や再活性化したHIV-1潜伏感染細胞では、N4BP1が宿主タンパク質分解酵素MALT1により分解され、その機能を失うことも明らかとなった(Nat Microbial)。 2.コドンに隠された新たな免疫応答分子制御機構の解析 ヒトタンパク質コード配列のコドン頻度の網羅的な主成分分析により、コドンを3番目の塩基にGまたはCを持つもの(GC3)とAまたはTを持つもの(AT3)という2つの異なるグループにクラスター化できることを見出した。GC3コドンはmRNAを安定化するが、AT3はmRNAの不安定化と相関した。また、コドンを最適化したRELやIL6などのmRNAは非最適mRNAよりも安定であり、より効率的に翻訳された。さらに、ILF2とILF3が非最適なmRNAに特異的に結合しmRNAの安定性を制御することを見出した(EMBO Rep)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、免疫応答にした関連mRNAの1) 3’ UTR 2) mRNAコドンに潜む新たな制御情報 3) エピトランスクリプトームおよび修飾認識因子によるmRNA量調節機構について解析について解析を行い、4) 得られた免疫制御mRNA代謝機構の統合的解析を行い、mRNA代謝による免疫制御の全体像に迫ることを目標としている。これまでの研究から、1) 3’ UTR制御分子Regnase-1の免疫応答、免疫疾患における機能解明や、Regnase-1ファミリーRNA分解酵素N4BP1の抗ウイルス自然免疫応答における役割の解析を解明し、Nature, Nature Microbiology, Nucleic Acids Research誌などに論文を発表した。一方、Regnase-1制御法の開発に関しても、Regnase-1 3’UTR標的オリゴ核酸が、In vitroのみでなくIn vivoでもRegnase-1の発現増強、炎症抑制に効果を示すことが明らかとなり、京都大学より特許出願を行った(特願2018-054780)。2) mRNAコドンに潜む新たな制御情報に関しても、コドンバイアスによるmRNA安定化機構の解析を行い、EMBO Reports誌に論文を発表すると共に、新たな分子機構の解明を目標としてCRISPR-Cas9スクリーニングのシステムを構築、スクリーニングを開始している。このように、本研究は着実な成果を生んでおり、順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
1. mRNA 3’ UTRを介した免疫細胞時空間制御機構の解析 BioID解析で同定したRegnase-1複合体の機能解析を、細胞からマウス個体レベルに展開することにより、Regnase-1依存性mRNA分解の分子機構の全体像を明らかにしていく。また、Regnase-3やN4BP1を始めとしたRegnase-1ファミリー遺伝子欠損マウスの、自然免疫、獲得免疫細胞の活性化における表現型を検討することで、免疫制御におけるRegnase-1ファミリー蛋白質の役割を解明する。 2.コドンに隠された新たな免疫応答分子制御機構の解析 コドンバイアスを通じたmRNA安定性制御に寄与する分子機構を、CRISPR-Cas9スクリーニング法を用いて解析する。CD45.1、CD45.2 は、それぞれのmRNA配列は非常に相同性が高いにも関わらず、FACSで検出、識別可能である。そこで、システムを用いCD45.2のみのコドンを最適化、CD45.1, CD45.2を共に発現するCas9発現K562細胞を作製したところ、CD45.2発現がCD45.1と比較して上昇していた。今後、この細胞にgRNAライブラリーを導入し、CD45.2発現のみが低下した細胞群を分取、gRNAの偏りを解析し、最適化コドンによるmRNA安定化に関わる蛋白質を同定する。同定した分子群に関し、細胞やマウス個体レベルでノックアウトする事により、mRNAやタンパク質発現に与える影響、免疫応答に与える影響を検討していく。 3. mRNAエピトランスクリプトームを介した免疫制御機構の解明 マクロファージ、T細胞をマウスより単離し、TLRや抗原刺激に対するmRNAエピトランスクリプトーム変化を網羅的に解析する。また、m6Aメチル化制御分子の免疫応答制御における役割を、関連遺伝子欠損マウスの作製、解析をすることで解明していく。
|