研究課題/領域番号 |
18H05279
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒瀬 尚 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (10261900)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
|
キーワード | ペア型受容体 / 抑制化受容体 |
研究実績の概要 |
免疫システムには、活性化免疫受容体と抑制化免疫受容体から成る一連のペア型免疫受容体ファミリーが存在する。我々は、これら一連のペア型免疫受容体ファミリーがウイルスと共に共進化してきた免疫受容体であるとの仮説を立てて、多くのペア型免疫受容体の機能を解明してきた。しかし、依然として多くのペア型免疫受容体の宿主リガンド分子、病原体リガンド分子やその機能が不明である。本研究ではこれまでの我々の研究成果を基盤にして、ペア型免疫受容体ファミリーを介した宿主病原体相互作用の全貌解明を目指すと共に、ペア型免疫受容体が免疫システムの恒常性維持にどのように関与しているかを研究してきた。本研究では、免疫応答の制御分子である抑制化ペア型免疫受容体をどのような病原体が免疫逃避に利用しているか、さらに、生体防御における活性化ペア型免疫受容体の機能の解明を行なった。持続感染するウイルスや細菌を解析することにより、新たなペア型受容体の認識機構明らかになってきた。特に、熱帯熱マラリア原虫の多重遺伝子RIFINを解析することにより、今までに明らかにしてきたLILRB1やLAIR1以外のペア型抑制化受容体としてLILRB2に対するRIFINも存在することが明らかになってきた。さらに、実験株ばかりでなく、熱帯熱マラリア患者由来の感染赤血球を解析することにより、実験株には存在しないRIFINがペア型受容体のリガンドになっていることが明らかになった。そこで、感染赤血球からRIFINライブラリーの作成方法を樹立し、実験株以外の熱帯熱マラリア原虫のクローニングする方法を樹立した。さらに人種間における抑制化受容体の多型性を解析すると、RIFINとの結合部位に遺伝子多型がみられることが判明し、ペア型抑制化受容体の中には熱帯熱マラリアのRIFINとの相互作用によって形成されたものも存在する可能性が明らかになってきた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々は、一連のペア型免疫受容体ファミリーがウイルスと共に共進化してきた免疫受容体であるという独自の仮説を立てて、多くのペア型免疫受容体の機能を解明してきた。その結果、様々な病原体を解析することにより、新たなペア型受容体のリガンド分子が発現していることが明らかになってきた。特に、熱帯熱マラリア原虫に関しては、多重遺伝子RIFINが今までに明らかになってきた受容体以外も標的にしていることが明らかになった。また、実験株以外だけでなく、野生株を解析することでペア型受容体と相互作用するRIFINの同定に成功した。さらに、RIFINと免疫分子との相互作用を解析するために、RIFINの発現ライブラリーに成功し、様々なペア型受容体とRIFINとの相互作用の解析が可能になると考えられる。さらに、RIFINとの相互作用の領域に遺伝子変異が多いことから、ペア型受容体の遺伝子多形には熱帯熱マラリア感染が関与している可能性が考えられる。免疫系の遺伝子変異が特定の病原体によって形成された可能性が明らかにり、免疫学的にも、微生物学的にも大変興味深い知見である。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究によって様々な病原体を解析することにより、新たなペア型受容体のリガンド分子が発現していることが明らかになってきた。従って、今後、これらのリガンド分子を同定することにより、感染症の制御に関与している新たな宿主病原体相互作用を明らかにする予定である。特に、熱帯熱マラリア原虫の多重遺伝子、RIFINの解析も進めることにより、全く新たな宿主病原体相互作用を解明するとともに、ペア型受容体の多様性がどのように作られたかを明らかにする予定である。特に、活性化受容体の解析も進めることにより、活性化受容体が作れらた生理的意義や新たな感染防御機構の解明が期待される。
|