研究課題
老化では活性酸素種(ROS)の産生が亢進するとされている。NADPH1オキシダーゼ1(NOX1)によって生成されるROSは、ROS-BCL6B-NOX1経路によるROSのフィードフォワード生成を通じて、精原細胞(SSC)の自己複製を促進すると考えられている。本年度はROSによって誘発される自己複製における酸素の重要な役割を検討した。培養されたSSCは、ミトコンドリア由来のROSの増加にもかかわらず、低酸素下での増殖が不十分で、BCL6Bの発現を欠いていた。低酸素下でのROS増幅の欠如により、NOX1由来のROSは大幅に減少し、Nox1欠損SSCは低酸素下では増殖が低下したが、正常の酸素濃度では野生型と同レベルに増殖した。 Nox1欠損未分化精原細胞は低酸素応答のマスター転写因子であるHIF1Aの発現の有意な低下を示したため、NOX1由来のROSもin vivoで低酸素応答に影響を及ぼすことが明らかになった。またMYCの活性化とHIF1AによるCDKN1Aの抑制にもかかわらず、低酸素レベルでは増殖が低下しており、これらの遺伝子の欠損は自己複製効率を悪化させた。低酸素下でのNox1またはHif1a欠損SSCの増殖障害は、Cdkn1aの枯渇によって救済することが可能であった。これらの観察結果と同様に、Cdkn1a欠損SSCは低酸素下でのみ活発に増殖し、正常酸素下では顕著な変化は見られなかった。一方、ミトコンドリア由来のROSまたはTop1mtミトコンドリア特異的トポイソメラーゼ欠損症の化学的抑制はSSCの運命に影響を与えず、NOX1由来のROSがミトコンドリア由来のROSよりもSSCでより重要な役割を果たすことが示唆された。これらの結果は、SSCの自己複製におけるROSの起源と酸素分圧の重要性を示すものである。
3: やや遅れている
コロナウイルス感染症の蔓延のためにNox1マウスから樹立する予定であったGS細胞の樹立が遅れてしまったため。
今年度までの研究で予定していた体細胞の老化については一定の成果を得ることが出来た。翌年度は生殖細胞の老化についての解析を詳細に行いたい。また緊急事態宣言のために遅れているNox1欠損GS細胞の樹立を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件)
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