研究課題/領域番号 |
18H05283
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
小守 壽文 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (00252677)
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研究分担者 |
姜 晴 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (00790007)
宮崎 敏博 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 准教授 (10174161)
森石 武史 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (20380983)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | Runx2 / 分化転換 / 血管進入 / アポトーシス / 骨芽細胞 / 軟骨細胞 |
研究実績の概要 |
成長板は、静止軟骨細胞、増殖軟骨細胞、肥大軟骨細胞、終末期肥大軟骨細胞からなる。終末期肥大軟骨細胞に、軟骨周囲より血管が侵入し、軟骨は骨へと置き換えられて行く。骨芽細胞分化および軟骨細胞の後期分化に必須な転写因子Runx2のノックアウトマウスでは、終末期肥大軟骨細胞でのVEGF(vascular endothelial growth factor)発現が低下しており、軟骨への血管進入が起こらない。また、終末期肥大軟骨細胞はアポトーシスよって死滅すると考えられていたが、最近、骨芽細胞へ分化転換することが報告された。 Runx2が軟骨への血管進入に必須であるか、さらに軟骨細胞から骨芽細胞への分化転換に関与するか検討した。肥大軟骨細胞に発現するX型コラーゲン遺伝子Col10a1のプロモーターによって発現誘導されるCre (Col10a1-Cre)マウスとRunx2のfloxマウスを交配し、肥大軟骨細胞でRunx2を欠損するRunx2fl/flCreマウスを作製した。Runx2fl/flCreマウスでは、軟骨への血管進入はコントロールマウスと同様に観察された。一方、Runx2fl/flCreマウスでは、軟骨細胞から骨芽細胞への分化転換が起こらず、胎生期に一次海綿骨を形成できなかった。分化転換した骨芽細胞は、海綿骨および皮質骨の両者の骨芽細胞として検出されたが、6週齢以降のRunx2fl/flCreマウスは、海綿骨および皮質骨ともに正常レベルに形成されていた。これは、軟骨周囲の間葉系細胞由来の骨芽細胞によって補われたためと考えられた。 これらの実験により、Runx2は軟骨細胞から骨芽細胞への分化転換に必須であること、この分化転換は胎生期・新生児期の一次海綿骨形成に重要な役割を果たすが、成獣マウスの骨量獲得には必須ではないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Runx2は、前肥大軟骨細胞で発現が上昇し、終末期肥大軟骨細胞まで発現が維持される。肥大軟骨細胞でRunx2を欠損させても、終末期肥大軟骨細胞への最終分化は阻害されなかった。しかし、終末期肥大軟骨細胞でのMmp13, Spp1, Ibsp, Vegf発現は低下していた。したがって、Runx2は、終末期肥大軟骨細胞への最終分化には必須ではないが、終末期肥大軟骨細胞でのMmp13, Spp1, Ibsp, Vegf発現に必要であることを明らかにした。 軟骨細胞への血管進入は、軟骨内骨格に必須のプロセスであるが、その詳細は解明されていない。Runx2のノックアウトマウスでは、終末期肥大軟骨細胞でのVegf発現が低下しており、軟骨への血管進入が起こらない。このため、Runx2による終末期肥大軟骨細胞でのVegf発現調節が、血管進入に必要と考えられてきた。しかし、Runx2fl/flCreマウスでは、終末期肥大軟骨細胞でのVegf発現は低下していたが、軟骨への血管進入が起こった。軟骨周囲にbone collarが正常に形成され、bone collarの骨芽細胞はVEGFを強く発現していた。したがって、bone collarの骨芽細胞でのVEGF発現が軟骨への血管進入に重要であることを明らかにした。 また、Runx2fl/flCreマウスでは、終末期肥大軟骨細胞でのアポトーシスがコントロールマウスより増加しており、Runx2は終末期肥大軟骨細胞のアポトーシスを抑制する機能があることも明らかにした。 また、Runx2が、軟骨細胞から骨芽細胞への分化転換に必須であること、さらに分化転換した骨芽細胞の骨形成における生理的意義を明らかにした。これらの発見は、軟骨内骨化および骨形成の基本プロセスの分子メカニズムを明らかにしたものであり、学術的意義が非常に高い。
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今後の研究の推進方策 |
軟骨細胞特異的エンハンサーを認識するguide RNAとFLAGタグをつけたdCas9を細胞に導入し、固定後DNAを切断、FLAG抗体で免疫沈降し(enChIP法)、質量分析によりエンハンサー結合タンパク質を同定する。 エンハンサー間及びプロモーターとの相互作用を調べるため、DNA切断後、近位断端を接合、それぞれの領域を認識するビオチンラベルRNAプローベで濃縮、シークエンスを行う(capture Hi-C法)。この方法により、定量的にエンハンサー間及びプロモーターとの相互作用を明らかにする。 SW1353細胞で樹立した軟骨細胞特異的エンハンサーx4 Luc とレニラLuc の両者を安定発現する細胞株を用い、天然化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニングを行う。3SD以上の活性を示した化合物を活性化化合物とし、コントロール(溶媒DMSO)の0.3以下の活性を示したものを抑制化合物とする。 Runx2のゲノム領域を大きく欠失させたマウスを作製し、そのマウスに表現型が出現あるいはRunx2 mRNAが低下した場合、その領域に関しては、欠失領域に含まれるエンハンサー候補とShh最小プロモーターをつなげたGFPレポーターコンストラクトを作製、enSERT(enhancer insertion)法を用いて、安定発現するレポーターマウスを作製する。凍結切片を作製、GFP発現細胞を特定する。軟骨細胞、骨芽細胞あるいはその両者に特異的に発現していたエンハンサーに対しては、ガイドRNAを作製、Cas3とともに受精卵に注入、エンハンサー候補領域に数千bpの欠失を起こし、表現型を解析する。複数のエンハンサー領域が存在する場合は、それぞれを認識するガイドRNAを同時に注入、複数のエンハンサーを同時に欠失させる。これらのマウスの表現型を解析し、どのエンハンサーが生理的に重要か明らかにする。
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