研究課題
本研究は、ニッチ分子の同定とそのシグナル解析を行い、造血幹細胞の自己複製と静止状態を制御する系の確立を目指す。ニッチ細胞から産生される分子、接着分子を同定し、それらが幹細胞の維持・分裂にどのような作用を及ぼすかを解析する。現在、我々は、幹細胞は、ニッチに接着して静止期を維持し、ニッチから離れて活性型幹細胞になると考えているが、この仮説をより詳細に検証する。方法としては、FACSを用いて多様なニッチ細胞を分離し、遺伝子発現を検索し、その機能を、試験管内における幹細胞とニッチの再構成実験、遺伝子破壊マウス の移植実験などを用いる。我々は、今までにAng-1/Tie2 (Cell 2004) 、TPO/Mpl (Cell Stem Cell 2007) などのシグナルが、ニッチ・造血幹細胞の相互作用に関与することを、世界に先駆けて同定し、その解析を進めてきた。CD150陽性CD48 陰性の幹細胞を単離して培養し、2個の娘細胞(PDC)になったとき、各々の細胞を回収し、microfluidicsを用いたqPCR法により遺伝子の解析を行う。Tie2陽性細胞を発現する未分化細胞分裂、CD48抗原を発現する分化細胞への分裂に分けて検討し、対称分裂、非対称分裂の頻度を明らかにする。上記の検討を基に、次に種々のサイトカインを加え、分化細胞分裂と分化細胞分裂さらには、対称分裂と非対称分裂の頻度を検討して、自己複製に与える影響を検討する。さらには、ニッチ細胞上で幹細胞を培養し、細胞極性と自己複製の関係を解析しながら、幹細胞に対するニッチ制御の機構を解明する。
2: おおむね順調に進展している
造血幹細胞におけるミトコンドリア制御及びミトコンドリア動態が幹細胞に与える影響に関する研究を展開し、論文発表に至った。幹細胞分化におけるミトコンドリアの関与に関しては、トロンボポイエチン(Thpo)刺激時にミトコンドリア膜電位の上昇を示す造血幹細胞が、巨核球系に分化する傾向が強いことを示し、論文に報告した(Nakamura-Ishizu et al., Cell Rep, 2018)。さらに、5-FU投与による骨髄抑制からの回復期における造血幹細胞の自己複製分裂は、①細胞内カルシウム濃度/ミトコンドリア膜電位の上昇が引き金となっていること、②この時の細胞内カルシウム濃度/ミトコンドリア膜電位の制御に細胞外アデノシンが関与していることを明らかにした。一方で、in vitroでの造血幹細胞分裂誘導時(分化分裂時)においても、細胞内カルシウム濃度/ミトコンドリア膜電位の上昇は確認されるが、重要なことに、分裂誘導時の細胞内カルシウム濃度/ミトコンドリア膜電位の上昇の適度な抑制が、分裂後の幹細胞活性化の維持に寄与すること見出した。これらより、造血幹細胞分裂時に上昇する細胞内カルシウム濃度/ミトコンドリア膜電位の適度な抑制が、自己複製分裂/分化分裂の決定に寄与することが明らかにし、論文に報告した(Umemoto et ai., J Exp Med, 2018)。
本研究は、造血幹細胞ニッチ、幹細胞メタボリズムと幹細胞のDNA損傷の3課題に取り組み、以下の質問に解を得るようにする。1)幹細胞の細胞回転はミトコンドリアの機能・代謝とどのように連関するのか?2)ミトコンドリアの産生・分解はどのように制御されるのか?酸素濃度・サイトカイン・ニッチ細胞の共在の影響を検討する。3)幹細胞とニッチの間には、ミトコンドリアの移送があるのか?あるとしたらその生物学的意義は?これらの検討を介して、幹細胞の維持機構を明らかにする。また、生体内で造血幹細胞の増幅があると考えられる新生児期造血の特徴を解析する。さらに、静止期(G0)の維持とオートファジーの関係について解析を進める。造血幹細胞特異的な ATG7 欠損(Vav-Cre 誘導)マウスでは、4週齢より造血不全を示すが、移植実験においては、新生児由来 ATG7 欠損造血幹細胞は、野生型新生児由来造血幹細胞と同等の骨髄再建能を有していた。このことから、造血幹細胞の機能における、ATG7依存性のオートファジーの意義について新規のパラダイムを考える。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 11件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件)
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