研究課題/領域番号 |
18H05284
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
須田 年生 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 卓越教授 (60118453)
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研究分担者 |
馬場 理也 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 准教授 (10347304)
梅本 晃正 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特任准教授 (50620225)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 造血微小循環(ニッチ) / 不均等分裂 / 自己複製 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
我々は、今までに、幹細胞・巨核球の産生において最重要なサイトカイン、トロンボポエチン (Thpo) によるミトコンドリア代謝を活性制御と造血幹細胞の分化・維持・増殖に関して報告してきた。本研究ではThpoシグナルを中心に、ミトコンドリア動態が幹細胞に与える影響に関する研究を展開した。幹細胞分化におけるミトコンドリアの関与に関しては、Thpo刺激時にミトコンドリア膜電位上昇を示す造血幹細胞が、巨核球系に分化する傾向が強いことを示し、論文発表しした(Nakamura-Ishizu et al. Cell Rep, 2018)。しかしながら、Thpoシグナルがどの様にミトコンドリア代謝を制御し、造血幹細胞の分化・維持に関わるのか、その分子メカニズムの詳細は不明な点が多くあった。 そこで、Thpo遺伝子欠損マウスを作成し、解析したところ、これまでの報告と同様、骨髄内静止期造血幹細胞数の著しい低下を認めた。 これらの残存造血幹細胞は、Cycling し、Apoptosisを示したが、骨髄移植 あるいは、mpl-agonist(Romiplostim)投与により、正常に匹敵する幹細胞性を回復することがわかった。Thpo遺伝子欠損マウスから造血幹細胞を分離し、RNA sequence解析を施行したところ、 KOマウス幹細胞では、ミトコンドリア・酸化的リン酸化関連分子の発現が優位に低下しており、これらが、mpl-agonist投与により恢復することが示された。 サイトカインによる造血幹細胞代謝調節の重要性を指摘することができた。(Nakamura-Ishizu et al. Blood, 2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、コロナ下にあったが、幸い熊本大学では動物施設などの閉鎖もなく、研究を順調に進めることができた。しかしながら、シンガポール国立大学などとの国際共同研究に関しては、一定の停滞があった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、引き続き、Tumor suppressor geneであるFolliculin (Flcn) KO mouseと ミトコンドリア膜結合分子(MAM)の一つであるMitol KOマウスを用いて、造血幹細胞におけるミトコンドリア代謝・ライソソーム機能を解析する。また、「造血発生過程の解析からの造血幹細胞の誘導」に挑戦する。 我々は、造血発生に関する研究を進めており、マウス胎生8-9日に、背側大動脈のhemogenic endothelial cellから造血細胞が出現することを認めている (Takakura N, Immunity, 1998) しかし、 最近、マウス胎児では、造血性血管内皮細胞から造血幹細胞の出現とほぼ同時期に、赤芽球骨髄球前駆細胞(EMP)が検出される。造血幹細胞とEMP、これら2つの細胞系譜の分離が胎生期のどの段階で形成されるのかは分かっていなかった。我々は、造血幹細胞の発生経路特異的に発現する遺伝子Hepatic Leukemic Factor, Hlfを同定し、この遺伝子を利用したレポーターマウス(Hlf-tdTomatoマウス)を作製することで、造血幹細胞とEMPの分離過程を詳細に解析することを試みた。その結果、造血幹細胞とEMPの発生経路は、造血性血管内皮細胞の段階ですでに分かれており、EMPは胎生9日以前の血管内皮細胞から、造血幹細胞は胎生9日以降に産み出されることが明らかとなった(Yokomizo T. et al. J Exp Med, 2019)。こうして、HLFを指標として血管内皮から発生する幹細胞をマークすることが可能となった。以後、ESなどの多能性幹細胞からの幹細胞誘導にこれを応用する。今までの研究では、幹細胞特異的な誘導とはいえず、未だ確定した定法はない。
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