研究課題/領域番号 |
18H05285
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山本 一彦 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (80191394)
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研究分担者 |
鈴木 亜香里 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 副チームリーダー (00391996)
庄田 宏文 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (20529036)
尾崎 浩一 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, メディカルゲノムセンター, 部長 (50373288)
寺尾 知可史 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (60610459)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 多因子疾患 / ゲノム / エピゲノム / 遺伝子発現量 / プロモーター / エンハンサー / 免疫細胞分画 / 疾患関連遺伝子多型 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「ゲノム要因は疾患に対して因果関係を明示する」という原理に基いて、ヒトの多因子疾患研究において、因果関係を持つ中間形質を特定するための方法論を確立し、これを用いて病態の理解を進めることである。本研究では免疫系が関与する疾病を対象とする。多因子疾患における疾患リスク多型の多くが、遺伝子発現量に影響を与える遺伝的変異(発現に関する量的形質遺伝子座expression quantitative trait locus: eQTL)であるという最近の知見を基にして、遺伝子発現、エピゲノム変化、蛋白発現、細胞変化などの中間形質の中から、疾患成立や進展に対して因果関係をもつ要素を同定し、このような確実な情報をもとに病態の理解と新しい治療法開発の方向へ展開できるシステムを構築する。eQTLの特徴の一つとして、細胞特異的な機能発現があり、病態に関係する細胞を特定できることも重要な点である。このシステムが構築できれば、免疫疾患以外の多因子疾患への応用が可能となると期待できる。 特に、これらの疾患感受性変異(リスク変異)の多くは、非コード領域とくにプロモーターおよび活性化エンハンサー領域に存在する可能性が高いことが判明しつつあることから、プロモーター、エンハンサーの部位を特定できる解析手段として転写産物の5’末を正確に把握できるCAGE(Cap analysis of gene expression)法を実施する。そのための予備的実験で5種類の主要リンパ球サブセットでの解析を実施した結果、特定の細胞におけるエンハンサーの強さと遺伝的変異の間に相関を見出すことに成功しており、今回の対象とする29種類の免疫細胞サブセットについても同様に解析を行うことで、これまで機能が不明であった非コード領域に存在する遺伝的変異の機能と免疫疾患の病態形成における関与が明確にできると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
健常人末梢血より27リンパ球サブセットと好中球、末梢血単核球全体(PBMC)を合わせ、29種類のサンプルを75名分取得し、RNA-Seq法によるトランスクリプトーム解析、ATAC-Seq法によるオープンクロマチン解析を実施した。遺伝的変異についてはイルミナ社のアジア人用に調整されているアジアン・アレイを解析に用いた。これらのデータはすべて取得済みであり、現在データ解析を進めている。まずはオープンクロマチン解析の結果より、29種類の細胞サブセットはそれぞれの細胞特異性を示す領域と細胞間で共有される領域が存在している。さらにオープンクロマチン領域の情報とトランスクリプトーム解析のデータを統合することで、遺伝子の転写調節と各細胞における特異性の関連を明らかにするとともに、遺伝的変異との関連を統合解析することで、これまではっきりしていなかった遺伝子外の非コード領域にある遺伝子変異の機能について、より明確にすることができると期待される。 昨年度は転写産物の5’末を正確に検出できるCAGE法を開始し、プロモーターと活性化エンハンサー解析を実施する予定であった。活性化エンハンサーは、プロモーターと類似した両方向性のRNA(エンハンサーRNA)を生成することが最近の重要な知見であり、これに基づいた研究である。しかし、これらサブセットより得られるRNA量は10ng程度であり、より多量の0.5mg程度のRNAを用いる従来法では十分なシグナルを得ることができなかった。そこでPCR法を組み合わせた新しいCAGE解析手法を確立し、これを用いることでCAGE解析を施行することが可能となった。現在、2000を超すRNAサンプルを用いてCAGE法を実施中である。
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今後の研究の推進方策 |
遺伝子発現量解析データやオープンクロマチン解析データと遺伝的変異情報の統合解析により、eQTLを可能な限り多く検出する。その多くが、細胞特異的なプロモーターや活性化エンハンサー領域であり、さらに疾患リスク遺伝的変異とオーバーラップすると考えられている。一方、疾患リスク変異は、染色体のブロック構造のため、近隣する変異の中でどれが真の責任変異であるかの同定が難しい。この点でCAGE法を用いると非常に狭い範囲に細胞特異的プロモーターと活性化エンハンサーの位置を特定することができることから、真の疾患リスク多型を高率に同定できることが期待できる。そこで今後は、これらの情報を統合し、29サブセット別、疾患リスク変異、プロモーター、エンハンサー、遺伝子発現量のデータセットを構築することが最初の目標である。 次に、このデータセットを用い、多因子疾患の病態解明に関する新しい解析法の開発を行う。本研究では免疫疾患を主な対象とする。既に多くの免疫疾患における疾患リスク変異が多数報告されており、まず代表的な関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎などの疾患リスク変異を用いる。それぞれの疾患の数十から100以上のリスク変異を上述のデータセットに当てはめることで、どの免疫細胞サブセットでどのリスク変異がどの遺伝子発現に働いているかが推定できる。これらの情報を統合解析することで、各疾患での病態形成に関与する免疫担当細胞セブセットとそこで機能を発揮している複数のリスク変異、その役割、影響される遺伝子発現の組み合わせや因果関係のある蛋白発現などの中間形質が予測可能となる。これらの情報を用いることで、さらに転写因子結合サイトの同定、細胞内シグナルパスウェイの同定、創薬の方向性など、疾患理解の展開に繋がる方法論が樹立できると期待される。
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