研究課題/領域番号 |
18H05286
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
茂呂 和世 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (90468489)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
|
キーワード | ILC2 / 線維症 / ILC3 / IL-33 |
研究実績の概要 |
2型自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cells:ILC2)は、IL-33によって活性化し、IL-2、IL-5、IL-6、IL-9、IL-13、GM-CSFなどの2型サイトカインを産生することで寄生虫排除に働く一方で、気管支喘息をはじめとするアレルギーを悪化させる細胞であることが分かっている。 特発性肺線維症患者の肺胞洗浄液でILC2が優位に増加することが2014年に報告されている。我々の研究室で作製したIFNgR-/-Rag-2-/-マウスは、ILC2にとって抑制因子となるIFNgとTregが欠損することで恒常的にILC2が活性化するマウスであるが、このマウスでは肺線維症が自然発症することが明らかになった。 これまで肺線維症の研究にはブレオマイシンやシリカなどを気管支内に投与する肺線維症モデルマウスが用いられてきたが、これらの実験系は人為的な線維化誘導マウスであり、線維化が持続しないことから、未病期や増悪期が解析できないことが問題であった。一方で、IFNgR-/-Rag-2-/-マウスは15週齢前後で100%のマウスが肺線維症を自然発症することから、線維芽細胞のコラーゲン産生が始まる前の未病期の解析をすることが可能であり、50週齢前後に呼吸困難により死に至るため、線維化が慢性化する理由を突き止めることが可能なマウスとなっている。 本研究では、肺線維症自然発症マウスをscRNA-Seq解析によって解析することで、未発症→発症→重症化という線維化の流れにおいてILC2を中心に肺の細胞がどのように変化していくのかをダイナミックに描き出し、将来的に特発性肺線維症の新規治療法開発につながる研究基盤構築を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IFNgR-/-Rag-2-/-マウスを、ILC2を含むリンパ球全てを欠損したgc-/-Rag-2-/-マウスと交配することで新たに作製したgc-/-IFNgR-/-Rag-2-/-マウスでは、線維症の発症が見られなかったことから、線維症の発症に自然リンパ球が重要な役割を果たしていることが示された。そこでThy-1抗体をIFNgR-/-Rag-2-/-マウスに投与することでILC2およびILC3分画を除去したところ、肺線維症の発症が100%止まることが明らかになった。さらにILC3欠損マウスをIFNgR-/-Rag-2-/-マウスに掛け合わせたところ線維化が起こらなかったことからILC3が線維化の最も重要な細胞かと疑われたが、このマウスではILC2の活性化が起こらないことが明らかになった。そこで、ILC2活性化の最も重要な因子であるIL-33を欠損させたマウスをIFNgR-/-Rag-2-/-マウスに掛け合わせたところ線維化が起こらなかったことから、ILC2、ILC3の両方もしくはILC2が線維化の責任細胞であることが示唆された。 Single cell RNA-Seq解析からはILC2およびILC3の両方が線維芽細胞のコラーゲン産生開始よりも前に増加することが分かった。さらにILC2の中でもIL-13とIL-33受容体を高発現するSubpopulationが線維化の発症前に増加することが明らかになった。ILC2と線維芽細胞を共培養した実験から、ILC2が直接線維芽細胞のコラーゲン産生を誘導することも明らかになった。Single cell RNA-Seq解析によって病原性線維芽細胞も同定した。これらの病原性線維芽細胞は特発生肺線維症で発現上昇が報告されている多様な遺伝子が高発現していることから、我々の肺線維症モデルマウスがヒトの病態を再現している可能性が強く示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
IFNgR-/-Rag-2-/-マウスの解析については、ILC2およびILC3がどのような因子によって線維化を誘導するのかを明らかにする。好中球や血管内皮細胞がIFNgR-/-Rag-2-/-マウスの線維化に関わる可能性がSingle cell RNA-Seq解析から示唆されているのでこれらの細胞の関与を精査する。線維症はメカニカルストレスによって生じる説があるが、ヒト特発生肺線維症の場合、線維化は胸膜側から線維化が起こる事、また、我々のモデルマウスの中皮細胞がIL-33を高発現することから呼吸による中皮細胞のメカニカルストレスがILC2活性化の初期因子なのではないかと疑っている。この点を明らかにするとともに、なぜ線維症がいったん発症すると慢性化するのかを明らかにする。 IPF患者献体のBALFおよび末梢血検体を集めているが、COVID-19が始まって以来、供給に大きな遅延が生じている。当初の予定数を減らすか、目標まで時間をかけるか検討が必要な状況である。
|