研究課題/領域番号 |
18H05287
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
西村 幸男 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野, プロジェクトリーダー (20390693)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 人工神経接続 / 機能回復 / 機能再建 / 脊髄損傷 |
研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者が開発した、随意制御可能な生体信号をトリガーにして脊髄を刺激する「人工神経接続」を用いて、人工神経接続によって形成された未知の神経結合に、いかにして、脳および脊髄が適応するのかを調べることを目的としている。研究の初年度にあたる平成30年度では、以下の研究成果が得られた。 <テーマ1 大脳皮質の神経細胞集団は、運動に対する役割を変えられるか?> 随意運動をブーストできる脊髄電気刺激条件を見出すことを目標とし、随意運動中の健常サルと脊髄損傷サルの脊髄(C7-T2)への電気刺激による筋への効果を比較した。その結果、損傷部位直上への電気刺激でも興奮性の誘発電位を生成できることがわかった。また、無傷の脊髄への電気刺激では、損傷された脊髄への電気刺激とは異なり、随意筋活動の上昇とともに刺激効果も高まることがわかった。以上のように、損傷された脊髄への電気刺激でも筋活動を高める効果を生成できることがわかったが、随意運動をブーストするためには、無傷の脊髄への電気刺激が効率的であることが確認された。 <テーマ2 脊髄損傷患者の機能回復は脳・脊髄の機能的地図の変化によるものか?> 8名の脊髄損傷者において脊髄支配筋マッピングを作成することに成功し、そのうち1名の脊髄歩行中枢マッピングを得ることができた。脊髄支配筋マッピングでは、非侵襲的磁気刺激による誘発筋電図応答を観察することで損傷部尾側の麻痺筋を支配する脊髄神経の残存機能の評価を可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に示すように、5年間にわたる研究期間において当初の計画通りに成果が得られていることから、本研究は現在まで順調に進捗している。 <テーマ1 大脳皮質の神経細胞集団は、運動に対する役割を変えられるか?> 随意運動中の健常サルと脊髄損傷サルへの脊髄電気刺激の効果を比較した結果、いずれにおいても1つの刺激電極から、肘から指にかけての複数の筋へ誘発筋電図を生成することができた。いずれにおいても、刺激強度を上げると興奮性の効果を誘発できた。さらに、随意筋活動と刺激効果の関係性を調べたところ、健常サルにおける脊髄刺激効果は、随意筋活動と正の相関を示すが、脊髄損傷サルにおける刺激効果は、随意筋活動と負の相関を示すことがわかった。以上のように、脊髄刺激効果は健常サルと脊髄損傷サルで異なるものの、脊髄損傷後も筋活動を誘発できることが確認された。 <テーマ2 脊髄損傷患者の機能回復は脳・脊髄の機能的地図の変化によるものか?> ヒトを対象とした研究で、人工神経接続の効果を検証するための神経生理学的評価法の確立しつつある。異なる髄節に損傷のある脊髄損傷者8名において、非侵襲的磁気刺激を第11胸椎から第5腰椎までの椎骨間に与えることで、脊髄支配筋マッピングを作成することができた。麻痺筋の誘発筋電図活動を記録することで、損傷部尾側の脊髄神経の残存機能を評価することに成功した。また、このうち1名の脊髄損傷者において連発脊髄磁気刺激により下肢運動を誘発することに成功し、その誘発された下肢運動のキネマティクス解析から、脊髄磁気刺激によって歩行運動を誘発する脊髄歩行中枢マッピングを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の2年目にあたる2019年度は、以下のように研究を推進する。 <テーマ1 大脳皮質の神経細胞集団は、運動に対する役割を変えられるか?> 健常サルへ人工神経接続を行い、人工神経接続による如何なる神経結合の付与が、筋活動、脳活動、随意運動にどのような影響を及ぼすかを明らかにする。あらかじめ手首運動課題を学習させたサルに、筋電図を記録するためのワイヤーを筋へ埋め込む。また、刺激電極を脊髄、脳活動を記録するためのユタアレイを脳に設置する。そして、複数種類のパターンで人工神経接続を行い、筋活動、脳活動、タスクパフオーマンスの変化を記録する予定である。 <テーマ2 脊髄損傷患者の機能回復は脳・脊髄の機能的地図の変化によるものか?> 脊髄損傷者において作成した脊髄マップ、大脳皮質マップが脊髄損傷の位置や規模にどのように関連するか検証し、人工神経接続による介入効果を図るための指標を確立することを目指す。 [実験2-1]脊髄マッピング:1)脊髄支配筋マッピング:脊髄磁気刺激によって下肢の筋群に誘発される誘発筋活動を記録し、脊髄刺激部位と刺激部位が支配している筋肉を同定する。2)脊髄歩行中枢マッピング:我々は脊髄磁気刺激によって歩行が誘発できる部位と、うさぎ跳び運動が誘発できる部位があることを見出している。これを利用し、脊髄磁気刺激によって誘発できる下肢運動の種類を同定し、それぞれの下肢運動を誘発できる脊髄の刺激部位を同定する。 [実験2-2]大脳皮質マッピング:大脳皮質における支配筋マッピング:大脳皮質への磁気刺激によって四肢の筋群に誘発される誘発筋活動を記録し、大脳皮質における筋支配領域をマッピングする。
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備考 |
http://www.igakuken.or.jp/neuroprosth/index.html
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