研究課題/領域番号 |
18H05293
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
熊谷 嘉人 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00250100)
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研究分担者 |
上原 孝 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (00261321)
西田 基宏 九州大学, 薬学研究院, 教授 (90342641)
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研究期間 (年度) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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キーワード | 環境中親電子物質 / 活性イオウ分子 / エクスポソーム / 複合曝露 / アンチポーター |
研究実績の概要 |
メタルエクスポソームのモデル実験:2020年度における培養細胞で得られた知見を参考にして、非細胞系(モデルタンパク質としてアルブミン)、細胞系および個体(マウス)を用いて、親電子性金属の複合曝露(エクスポソーム)実験を行なった。その結果、メチル水銀(MeHg)との反応で観察されるアルブミン中チオール基の修飾は、銅(Cu)やカドミウムを共存させると増強されたが、アルミニウム(Al)やスズでは影響されなかった。HepG2細胞をMeHgに曝露すると、細胞外に排泄されたシステインパースルフィド(CysSH)の消費、細胞内タンパク質へのS-水銀化および細胞毒性が見られたが、CuおよびAlの共存化で増強および影響されなかった。マウスにMeHgを曝露すると、協調運動の低下および時間依存的な致死効果が観察された。パースルフィド処置でそれぞれ抑制されたが、そこに銅が共存すると、パースルフィドによる抑制効果は消失した。MeHgの親マウスへの単独曝露に比べて、銅を共存させると胎児の肝臓中水銀の蓄積は有意に増加した。 ニンニク中サルフェン硫黄含有化合物の分離およびMeHgリスクの軽減: MeHgはサルフェン硫黄を含む低分子と反応すると、低毒性のイオウ付加体が生じる。ニンニクジュースをヘキサンで抽出すると、効率良くサルフェン硫黄含有脂肪族炭化水素類を回収できた。ニンニクのヘキサン抽出画分(GHE)を濃縮乾固して得た残渣を分取用シリカゲルカラムで分離した結果、構造の異なるサルフェン硫黄含有脂肪族炭化水素が存在することが示唆された。MeHgによる用量依存的な細胞毒性は、GHEの共存下で有意に抑制された。MeHg曝露によるマウスの体重減少および致死効果は、GHEを処理することでそれぞれ有意に抑制された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はヒトの生涯曝露の総体とされるエクスポソームにおいて、その特殊外的要因の中で「優先被験物質」とされている親電子物質が、生活環境、ライフスタイルおよび食生活を通じて曝露されることに注目して研究を進めている。細胞あるいはマウスにPM2.5に存在するナフトキノン類、タバコの煙に含有される1,4-ベンゾキノンやクロトンアルデヒド、ポテトチップ中で非意図的に生成されるアクリルアミド、米に混入するカドミウム、マグロなどの大型食用魚類に蓄積するメチル水銀、パクチーのような香菜に含まれる(E)-2-アルケナール類を単独曝露すると、レドックスシグナルの活性化(低用量)および毒性(高用量)することを見出した。また、このような環境中親電子物質を複合曝露すると、レドックスシグナルの活性化および毒性の閾値がそれぞれ低下することを明らかにした。環境中親電子物質の毒性制御に転写因子Nrf2および活性イオウ分子産生酵素であるCSEが重要な働きをしていることを示唆した。活性イオウ分子によるメチル水銀の捕獲・不活性化で生じるイオウ付加体は、生体内でジメチル水銀に分解され、呼気を介して生体外に排泄されることを世界で初めて明らかにした。メチル水銀のイオウ付加体は、野生生物であるインディアンマングースの体内でも生成されることも示した。さらに、毒性低下にかかわるメチル水銀のイオウ付加体の生成を促すサルフェン硫黄を含有する脂肪族炭化水素がニンニク中に含まれており、ニンニクのヘキサン抽出画分をメチル水銀と同時に処置すると、メチル水銀のリスクが軽減することを細胞および個体で証明した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果より、限定エクスポソームを研究する一環として環境中親電子物質エクスポソームのモデル実験を非細胞系、細胞系および個体で検討し、想定したような結果を得ることができた。一方、環境中親電子物質の捕獲・不活性化に働く活性イオウ分子が細胞内で大量に産生されたり、あるいは外来的に摂取した際に生じるイオウストレスに対してどのような応答防御システムが存在するかを調べた。その結果、シスチン含有餌+CSE高発現マウスおよびポリスルフィド曝露実験より、シスチン依存性アンチポーターを介して細胞外のシスチンが取り込まれ、それが速やかにシステインに還元され、その後生成した活性イオウ分子のひとつであるシステインパースルフィドがそのアンチポーターを介して細胞外に排泄されることを明らかにした。 一連の研究成果は、システインパースルフィドが一定量以上になると細胞内から細胞外へ汲み出すことで、細胞はレドックスホメオスタシスを維持していることを示唆している。また、生活環境、ライフスタイルおよび食生活を介して細胞内に親電子物質が侵入する前に、血液などの細胞外で活性イオウ分子に捕獲・不活性化される可能性が考えられた。そこで、この仮説を立証する実験を企画する。被験物質として大気中親電子物質であるナフトキノン類および1,4-ベンゾキノンを用いる。このような細胞外での環境中親電子物質の不活性化(フェーズゼロ反応)を支持する目的で、安定同位体標識したシスチンを用いて、シスチン依存的アンチポーターを介したシスチン/システイン/システインパースルフィドのレドックスサイクルの実態および環境中親電子物質の細胞外捕獲の事実を検証する。
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