本研究助成により,門野幾之進記念館(三重県),国立国会図書館,慶應義塾福沢研究センターでの史料調査を行った。門野幾之進記念館では,本務校の学生をアルバイトとして雇用し,現在確認できる全ての書簡史料の写真撮影を行った。これらの史料の分析により,その多くが家族間の私信としての性格が強かった一方,本研究が課題とした慶應義塾関係者との経済的交流を確認することができた。また,慶應義塾福沢研究センターでは,伊東要蔵家旧蔵史料の写真撮影を実施した。これまでも,伊東要蔵が慶應義塾出身の企業家と連携を進めつつ経済界で活動していたことは明らかであったが,今回の調査により,富士瓦斯紡績などでの具体的な活動について把握することができた。 また,これら史料の分析結果を,日本経済の歴史展開の中で相対的に把握するために,当該分野に関する先行研究を幅広く渉猟した。その結果,企業経営や資金調達における企業家ネットワークの役割については言及されつつも,その内部における実体的な役割については充分に検討が進められていないことが改めて確認された。本研究によって明らかにされた慶應義塾出身者を中心とした学閥企業家集団の存在は,近代日本の経済発展を支えたネットワークの内部的機能を実証的に解明できる事例であるといえる。即ち,学閥を準拠集団として把握することで,企業家相互の実際的連帯について,門野幾之進や伊東要蔵,和田豊治といった個別の企業家の活動実態から明らかにできたといえる。 以上の研究成果の一部は,2019年度三田史学会(慶應義塾大学部文学部主催)大会の自由論題報告「近代日本の学閥企業家集団―伊東要蔵とその周辺―」として報告予定である。
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