未利用バイオマスの一つであるリグニンから燃焼を経ずに直接電気エネルギーを得る新奇燃料電池システムを考案した。これは、芳香族分解菌の代謝反応を利用してリグニン分解物をガリック酸に変換し、生成したガリック酸を燃料電池の還元剤として利用するものである。 リグニン分解物をガリック酸に効率的に変換する微生物触媒として芳香族分解菌Sphingobium SYK-6株を選択した。休止菌体を調製し、シリンガ酸をリグニン分解物のモデル物質として代謝試験を実施したところ、電気化学的に活性なガリック酸が菌体外に分泌されることが示された。変換効率のさらなる向上を狙いガリック酸代謝酵素欠損株を含む遺伝子破壊株3種を使用して同様の実験を行ったが、変換効率の向上は見られなかった。シリンガ酸からガリック酸への変換には補酵素が必要であり、遺伝子破壊株の利用に加えて補酵素再生系を活性化する培養条件の探索が変換効率の改善に効果的であると推測した。 一方、微生物触媒の活性が高い中性条件におけるガリック酸の電気化学的酸化についても検討した。その結果、生成物が電極表面に堆積して電極反応を阻害することがわかった。中性条件でも電気化学的活性を示すポリアニリン/ポリアクリル酸複合膜で電極表面を修飾したところ、生成物の堆積は劇的に抑えられた。この修飾電極と白金触媒を担持した炭素電極をそれぞれアノードとカソードとして単層型燃料電池を試作し、中性条件においてガリック酸から電気エネルギーが得られることを実証した。
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