本研究は,航空機用タービンブレードの熱遮蔽コーティングに用いられるジルコニアセラミックスの塑性変形能を最大限に引き出し,耐剥離性に優れたコーティングを創製することを目的として行われた。過去のコーティング剥離の研究は,破壊力学・構造力学によるところが大きく,「結晶塑性学」を適用する試みはほぼ皆無であった。というのも,セラミックスは脆く塑性変形を生じないと考えられてきたためである。ところが近年,数マイクロメートル以下の微小スケールでは,セラミックスでも塑性変形による延性を示すことが知られており,そのミクロな変形特性を理解することは,「単結晶マイクロコラム構造」からなる熱遮蔽コーティングの耐久性向上にも有用であると考えられる。 そこで本研究では,立方晶型のジルコニアセラミックスに対し,室温から500℃までの温度範囲における単結晶領域でのナノインデンテーション試験と,圧痕直下での電子顕微鏡観察を行い,単結晶のミクロな変形特性と,それを担う結晶欠陥および変形機構の温度・結晶方位依存性を明らかにした。ここから得られた主な知見は以下の通りである。(1) 結晶欠陥: いずれの温度・結晶方位においても,変形は{001}面上の転位運動によって生じた。(2) 温度依存性: 変形を支配する因子として,室温付近では原子面せん断の寄与が大きく,温度の上昇とともに原子振動の寄与が増加した。(3) 結晶方位依存性: <001>方位の近傍では,比較的低応力で塑性降伏し滑らかな加工硬化を伴う弾塑性遷移,それ以外の方位では,比較的高応力で「pop-in」を伴ったバースト的な塑性降伏が現れた。これらの知見は,熱遮蔽コーティングのミクロ構造における結晶塑性制御に対して有用であると考えられる。 なお,以上の成果をもとに次年度はコーティング組織の設計を行う計画であったが,次年度は課題辞退のため,これは行われない。
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