ハーフメタル材料はスピン分極率が1となる材料であり、応用先の一つとして磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)用の強磁性体電極が挙げられる。MRAM用の強磁性体電極には、消費電力の低減や高速化の観点で磁化が小さいハーフメタル材料が求められるが、低磁化材料の高トンネル磁気抵抗(TMR)効果はいまだ達成されていない。本研究では低磁化材料で高TMR効果発現を目指し、低磁化ハーフメタル材料の開発の新たな指針を得ることを目的とした。 本研究では前述した目的を達成するために、組成比を変更することで結晶構造や高スピン分極率を維持しつつ磁化の値を変化可能なMn-Co-V-Alフェリ磁性ホイスラー合金に注目して研究を行った。試料はスパッタリング法を用いて作製し、MgO(100)単結晶基板上にエピタキシャル成長させた。薄膜の組成はco-sputtering法を用いて系統的に変化させた。 作製したMn-Co-V-Al薄膜は組成を変更させることで磁化の値が変化し、磁化が補償する組成を有する薄膜の作製に成功した。さらにX線回折法(XRD)の結果において、規則化を示す(111)面の回折ピークが明瞭に観察された。TMR効果の測定を行った結果、Mn2VAlやMn2CoAlはそれぞれのスピン分極率に基づく符号のTMR効果が観測された。一方、補償組成ではTMR効果を観測することができなかった。これは、Mn-Co-V-Al薄膜のスピン分極率が低いことやMgO層中の欠陥生成などが原因であると考えられる。 加えて、同様にフェリ磁性であるCoFeCrAlホイスラー合金についても検討した。380 emu/ccと低飽和磁化のエピタキシャル薄膜を得た。また、磁化ダイナミクスを計測した結果、ダンピング定数が0.005程度と比較的小さいことを明らかにし、ハーフメタルとの関係について考察した。
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