脳科学研究に汎用されるfunctional MRIは、脳広域の神経活動を網羅的に観察できる一方、低感度で分子特異性がない等の問題を有する。これらの問題を解決できれば、高次脳機能の理解や中枢神経疾患の創薬研究が大きく進展すると考えられる。そこで、脳神経活動を分子レベルで可視化するMRIプローブの開発を目的として研究を行った。 Bacillus megaterium由来シトクロムP450-BM3のヘムドメイン(BM3h)を進化分子工学的に改変し、ドーパミンやセロトニンなどのモノアミン系神経伝達物質と特異的に結合するBM3h変異体を作製した。並行し、モノアミン系伝達物質のアナログ分子を有機合成した。BM3h変異体とアナログの親和性は、天然リガンドよりも僅かに低いことがわかった。磁性酸化鉄ナノ粒子を光架橋リン脂質でコーティングした後、BM3h変異体またはアナログで表面を機能化した2種類のナノ粒子を調製・混合しプローブとした。BM3hとアナログの相互作用によって凝集状態にあるプローブが、天然リガンド存在下で解離しMRI信号に変化を及ぼすと考えた。 動的光散乱測定から、凝集状態にあるプローブがターゲット特異的に解離することがわかった。さらに、T2強調撮像においてターゲット濃度に応じた信号変化が得られた。今後、プローブデザインを最適化することで、ドーパミンやセロトニンなどのモノアミン系伝達物質の分子レベル脳機能イメージングへの応用が期待される。
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