世界のコメ生産を担うアジアのデルタ地帯では,気候変動などの理由により水供給が不安定化しており,節水的な稲作灌漑技術の開発と普及が喫緊の課題となっている。国際イネ研究所は,イネの活着期と開花期を除いて間断灌漑を実施することで用水量を低減させる灌漑技術Alternate Wetting and Drying(AWD)を開発し,その普及をアジア各国で進めてきたが,まだ十分な成果をみせていない。そのなかでベトナム・メコンデルタ北部に位置するアンジャン省は,AWD普及の数少ない成功事例とされる。本研究では,アンジャン省を対象地として,AWD普及を促進/制限する要因に関してGISを用いて分析をおこなった。 アンジャン省内に位置する125の行政村(Xa)に関する統計資料(2010年・2012年・2014年・2015年)から得たAWDの普及率を目的変数とし,詳細な地図や衛星画像などから得られた行政村ごとの水路密度や道路密度,酸性土壌の分布状況,土地の高低,堤防の整備状況などを説明変数として,AWDの普及に影響を及ぼする要素に関して偏順位相関により分析した。 普及初期の2010年は,省都の周辺に位置する行政村でAWD普及率が高くなる傾向が見られた。アンジャン省におけるAWD普及はまず省都周辺から始まったとされており,そういった歴史が普及率に影響を及ぼしたと考えられた。普及が進んだ2015年には水田標高と水路密度がAWDの普及率に影響する傾向が見られた。すなわち,低い場所の水田では水はけが悪く,逆に高い場所の水田では給水が不安定になるため,AWDの実施に支障をきたす可能性が示唆された。同様に水路密度も水供給と密接に関係にあるため,AWDの制限要因になっていると考えられた。 AWDの普及には安定的な灌漑環境が必要であり,まずはAWDに適した地域を抽出して普及を進めることが重要であると考えられた。
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