光遺伝学は,動物の行動と神経活動のパターンをリンクさせ,神経回路のメカニズムを細胞レベルで理解するためのツールとして,大きな注目を集めている.本研究では,2015年に発見されたアニオンチャネルロドプシン(ACR)を動物に発現させることで,「より強力かつ安全な神経抑制」を実現し,その有用性の検証として,線虫における「神経回路メカニズムの解明」を目指した. 2018年8月~2019年3月の期間において,ACRを発現する線虫の発現系を確立し,代表的な抑制性ロドプシン(AR3)との比較からACRの光遺伝学における有用性を検証した.①行動麻痺する線虫の割合から, ACRの方がAR3と比べおよそ1000倍高い光感度を持つことを実証した.②長時間露光における線虫の生存率から,AR3とACRの毒性を調べた.AR3を発現する線虫は30時間以内に全滅したのに対し,ACRを発現する線虫は30時間経過後もほとんど生き延びることが分かった.外向きプロトンポンプとして機能するAR3に長時間光を照射することで,細胞外のpHが下がり,線虫の神経細胞にアポトーシスが起きたと考えられる.③ACRの持続的な神経抑制効果をオレキシン神経の自然発火率を用いて調査した.AR3では光照射開始からおよそ1分後に自然発火が始まってしまうのに対し,ACRは光照射から5分後においても自然発火を抑制できることが明らかになった.以上のことから,ACRは①光感度,②光毒性,③持続的抑制の観点から,極めて有用な光遺伝学ツールになることが明らかになった.以上の研究成果は,査読論文誌Scientific Reportsに提出済みである.
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