植物免疫は、概日リズムや日齢などの内的要因と、環境刺激といった外的要因に調節されることが知られている。一方、植物免疫もまた、多様な環境応答などに影響を及ぼすが、これらの情報伝達経路間の複雑なネットワークは不明な点が多い。申請者は、これまでに植物免疫を制御する鍵転写補助因子のNPR1 が、環境応答機構とのネットワーク形成に重要である可能性を示した。 そこで本研究では、申請者が確立したコムギ胚芽由来の無細胞タンパク質合成系を用いて、FLAGタグ付きのシロイヌナズナの全転写因子タンパク質ライブラリーを作製し、ビオチン化NPR1との相互作用の有無をAlphaScreen assay(PerkinElmer)を用いて評価した。その結果、標的転写因子候補をいくつか同定したので、2次スクリーニングとしてベンサミアナ葉を用いたBiFC(bimolecular fluorescence complementation)解析に供試するために、全組み合わせ8パターンのコンストラクト作製を行った。現在までに、生体内におけるNPR1との相互作用を確認している標的転写因子も多数同定している。エチレンなど他のホルモンシグナルを制御する転写因子や、熱ストレス耐性に関与する転写因子も候補であることから、本スクリーニングによりNPR1の新規機能を明らかにできることが示唆される。 今後は、NPR1 標的転写因子の変異体や過剰発現株を用いて、植物免疫や環境シグナルが互いの情報伝達系に与える影響を調査する。本研究によって、NPR1を中心とした「多様な環境要因が形成する情報伝達ネットワークの解明」といった課題の解決を目指すことができると期待される。
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