研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症は、人口の数パーセントで観察される神経発達障がいである。特に成人高機能自閉スペクトラム症は、近年社会的認識が高まりとともに、彼らが抱える社会性の障がいや認知的硬直性の影響が広く認識されるようになった。実際、非定型発達者本人に止まらずその周辺にとっても、彼らの非定型的な行動・認知パターンは、日常・社会生活に無視できない影響を及ぼしている言われている。
ヒト神経科学領域では、これまでは主にその社会性の障がいについて研究がなされてきた。研究者自身も、そういった研究に携わり、実際にオキシトシンによる治療効果の検証やその神経基盤の解明に貢献してきた。
一方、高機能自閉症のもう一つの中核症状である認知的硬直性は、その影響の大きさにかかわらず、あまり研究されてこなかった。その原因の一つには、症状を心理実験で定量化する困難さがあった。本プロジェクトでは、自発的課題切り替えテストという心理課題を用いることでこの技術的困難を克服することに成功した。さらにこの課題への行動学的反応を指標とすることで、高機能自閉症の認知的硬直性に関わる脳部位を特定することに成功した。その結果は、現在査読付き国際誌に投稿中(minor revision)である。また、これらと並行して、高機能自閉症の認知的硬直性が、caudateの自発的神経活動のダイナミクスと関係しているということを同定することにも成功した。この成果は、査読付き国際誌(eLife)に発表された。そのほか、Molecular Psychiatry、Frontiers in Neuroinformatics, Human Brain Mappingにも共著論文が発表された。
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