マウスの心筋細胞は、出生後もその表現型が変化し、機能的に最終分化する。具体的には、整ったT管構造が形成され、興奮収縮連関の要であるL型Ca2+チャネルの電流密度や、活動電位に伴う細胞内Ca2+濃度上昇の上昇が見られる。しかし、このような心筋細胞の最終分化の分子メカニズムは明らかになっていない。 本研究は、このような出生後に起こる心筋細胞の最終分化の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。出生後の心臓内でその発現が変化する液性因子に着目し、その因子を介する細胞間シグナル経路が、心筋細胞の最終分化にどのような役割を持つかについて、マウス個体での検証を行った。生後1日目から30日目まで、マウスに種々の受容体阻害薬を継続投与し、心臓の機能、および心筋細胞の最終分化への影響について評価した。本研究の計画段階では、糖質コルチコイドおよび甲状腺ホルモンについてその役割を追う予定であった。しかしながら、甲状腺ホルモン受容体の阻害薬(1-850)や、糖質コルチコイド受容体の阻害薬(Mifepristone)を投与した個体から単離した心筋細胞の表現型に、顕著な変化は見られなかった。その一方で、gp130(Cardiotrophin-1受容体)阻害薬(SC144)、もしくはVEGF、PDGF、FGF受容体阻害薬(Nintedanib)をマウスに投与することで、その心筋細胞の最終分化が抑制されるという知見を得た。これらの阻害薬は、T管形成の異常、L型Ca2+チャネル電流密度上昇の抑制、活動電位に伴う細胞内Ca2+濃度上昇の抑制を引き起こし、また心臓では、左心室の収縮能低下が見られた。一方で、左心拡張期径の増大や不整脈は確認できず、心筋の繊維化も見られなかった。以上の結果から、gp130やVEGF、PDGF、FGF受容体が、心筋細胞の最終分化に関与することが示唆された。
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