大脳の右半球には,スポーツ動作に重要な「空間認知」に関する脳部位が存在する.一方,左半球には「言語野」が存在する(あがり状態では,言語野と運動に関する脳領域活動のコネクティビティが強化される).これらの機能局在に起因して,標的を狙う動作を要するスポーツ競技では,相対的に左半球よりも右半球の脳活動を増強させること(右半球優勢な活動)が高パフォーマンスにつながる可能性がある.本研究では,大脳の左右半球における活動の不均衡を応用し,アスリートのあがり防止法を確立することが目的である. 平成30年度は,コンピュータプログラムによって,右半球活動増強を目的としたニューロフィードバック(neurofeedback: NF)訓練のシステム構築を目指した.右半球の中心部から導出された脳波をオンライン解析し,アルファ帯域(8-13 Hz)のパワ値を棒グラフとしてフィードバックするシステムであった.当該システム作成後,ダーツ課題を用いて効果検証した.NF訓練が,ダーツパフォーマンスおよびダーツ投擲直前の脳活動にどのような影響を及ぼすか,統制群(虚偽のフィードバックを観察し,右半球活動増強を目指した)と比較することで検討した.その結果,訓練直後のダーツ試行では,NF訓練はパフォーマンス向上および右半球優勢な活動状態の創出に有効であると示唆された.しかしながら,プレッシャー下でのダーツ試行においては,その有効性が認められなかった. 以上の実験に加え,アスリートの内受容感覚に関する脳機能について調べた.内受容感覚は,身体内部の感覚であり,不安と密接に関係することが知られている.本研究の結果,左半球に位置する脳領域の一部が,内受容感覚に対する注意制御に関与していることがわかった(2018年度米国精神生理学会にて成果報告した).
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