ヒトの摂食行動は,恒常的調節系と報酬系による調節を受ける.肥満者はこれらの機構が破綻した状態にあり,肥満の予防及び治療において,摂食調節機構の正常化を図ることは有効かつ必要不可欠な手段である.摂食調節機構の正常化に寄与する栄養素として食物繊維が注目されているが,その食欲抑制効果は腸内細菌の寄与を受け,食物繊維の質・量の違いによって修飾される可能性がある.本研究は,肥満者・非肥満者において,食物繊維摂取と摂食調節,特に脳報酬系による調節機能との関連を明らかにし,それらの関係に寄与する腸内細菌を探索することを目的とした. 成人男女106名の習慣的な食事摂取状況及び食行動を調査した.加えて,脳報酬系が関わる調節機能を評価するために,ストループ課題及び先行手がかり課題を空腹時に実施した.後者では,先行刺激として食品画像(高エネルギー食品)・非食品画像を呈示し,その後に出現する目標に対する反応時間と正確性を記録した.非食品画像の後に呈示された目標と食品画像の後に提示された目標に対する反応時間の差を算出し,食への潜在的意識の度合いを評価した.ストループ課題では,文字の意味と色が一致している試行と不一致試行の反応時間を用いてストループ干渉を算出した. 精神疾患を有する者や正答率が低い者を除く98名を対象とし,肥満群(21名)と非肥満群(77名)において,習慣的な摂取量(不溶性食物繊維,水溶性食物繊維,総食物繊維)とストループ干渉あるいは食への潜在的意識との関係を検討した.その結果,水溶性食物繊維摂取量とストループ干渉あるいは食への潜在意識との関係が群間で異なることが明らかとなった.2019年度に実施予定であった食物繊維摂取と摂食調節の関係に寄与する腸内細菌の探索は,新規に採択された研究課題の一部として引き続き進行する.
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