レジスタンストレーニング(いわゆる筋力トレーニング)は骨格筋量を維持・増大させる手段であるが、高頻度でトレーニングを行うと、回復時間が不足し、オーバートレーニングに至る。しかしながら、オーバートレーニングの発生を検出するツールは未だ発見されていない。その理由として、オーバートレーニングによる運動効果の阻害メカニズムが不明である点が挙げられる。本課題では、オーバートレーニングのメカニズムを解明し、そこから得られた知見を活かしてオーバートレーニングの血中バイオマーカーの同定を目指す。 平成30年度は、オーバートレーニングによる運動効果の阻害メカニズムを検討した。C57BL/6Jマウスを、レジスタンス運動を72時間毎、24時間毎、8時間毎に行う3群に分類し、それぞれ右腓腹筋に対して3回のレジスタンス運動(3秒間の最大等尺性収縮を10回5セット)を実施した。各群最終セッションの6時間後に筋を摘出し、筋タンパク質合成及び関連する因子について検討した。その結果、72時間毎・24時間毎に行う群では生じていた筋タンパク質合成の活性化が8時間毎に行う群では消失しており、さらにそれが酸化ストレスの蓄積に伴う翻訳開始因子複合体の形成不全による可能性が示唆された。当初、これらの結果を踏まえて8時間毎に行う群に抗酸化剤を投与することを予定していたが、酸化ストレス自体も運動効果の一因となりうるため予定を変更し、酸化ストレスが抑制されるまで最終の運動終了からの回復時間を延長する検討を行った。その結果、運動終了12時間後には酸化ストレスの蓄積が解消され、筋タンパク質合成の活性化も生じることが明らかとなった。以上のことから、オーバートレーニングによる運動効果の阻害メカニズムには、酸化ストレスの蓄積が関与する可能性が示唆された。今後は、酸化ストレスに関連する指標を検討し、血中バイオマーカーの確立を目指す。
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