研究課題/領域番号 |
18J00002
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研究機関 | 放送大学 |
研究代表者 |
小栗 寛史 放送大学, 文化科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 慣習国際法 / 法源論 / 国際法史 / 国際法秩序構想 |
研究実績の概要 |
本研究は、当時の学説を渉猟し分析することで、19世紀以後の慣習国際法理論の変容過程を解明し、20世紀中葉に至るまでのヨーロッパ国際法の普遍化という過程の中で慣習国際法理論が果たした役割を明らかにすることを目的とするものである。かかる目的の達成のために、「国際社会」の脱欧州化が始まった同時代における慣習国際法理論とその変容を、概説書等から確認される学説状況及び国家実行の状況という2つの側面から、学説・国家実行間の緊張関係に着目して検討を進めてきた。 具体的には、昨年度の研究成果を踏まえ、今年度は、慣習国際法を国家の黙示の同意によって説明する「黙示の同意論」が近代国際法完成期(19世紀から20世紀前半)においてどのように構想され、展開されたのかという点の解明を中心に研究を進めた。そして、主要な学説史の再検討及び一次資料の考察を通して、次のような結果を得た。まず、先行研究における通説的な理解とは異なり、近代国際法完成期においても黙示の同意論は多くの論者によって採用されていたこと、しかしながら、その内実は実に多様であり、とりわけ論者の「国際法観」・「国際秩序観」に基づき、なぜ同意が国家に対する義務を与えるのかという国際法の拘束力の基礎に関する議論について、黙示の同意論には様々な変型があったということを明らかにした。さらに、アンツィロッティ(D. Anzilotti)を除いて、従来の学説史研究において等閑視されてきたイタリアの国際法学者による議論――とりわけカヴァリエリ(A. Cavaglieri)の一連の研究――に着目することで、以上の検討結果が同時代においても支持され得るものであったことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に即して、予定通りの研究の進捗があったため。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当時の国際社会における慣習国際法の性質理解(慣習国際法観)を明らかにするために、主として以下の3種類の国家実行に着目し、検討を試みる。 まずは(1)国内裁判所における慣習国際法の認定について。19世紀後半になると、英米を中心とする国内裁判所において慣習国際法の認定がなされるようになったため、主要な事例を中心に、各裁判所が①慣習国際法をどのようなものとして認識した上で定式化し、②どのようにしてその存在を同定したかという点を明らかにする。 次に、(2)常設国際司法裁判所規程第38条の起草過程について。1920年に法律家諮問委員会によって起草され、後に連盟理事会・総会での検討を経て成立した同裁判所規程の第38条1項(b)において、初めて国際場裡における慣習国際法の定式化がなされた。そのため、かかる議論の検討を通して、1920年当時の国際社会における慣習国際法観を明らかにする。 そして、(3)国際裁判所における慣習国際法の認定について。常設国際司法裁判所の設立以後、国際裁判所においても慣習国際法の認定がなされるようになった。とりわけ同裁判所のローチュス号事件判決(1927年)は、慣習国際法の性質理解を明示的に宣明したものとして頻繁に参照され、議論の対象となっている。このような議論状況に着目し、①本判決の分析を試み、②本判決が当時の議論に及ぼした影響を明らかにする。また、関連する裁判例も同定した上で、同様の分析を試みる。 以上の検討を通して、当時の国際社会において慣習国際法の性質がどのようなものとして理解・認識されていたか、そしてそれがどのように変容したのかを解明する。最後に、本研究における総括的検討として、理論が実行に影響を及ぼしていったのか(又はその逆なのか)という点に着目し、ヨーロッパ国際法の普遍化過程における慣習国際法理論の変容過程の全体像を明らかにする。
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