昨年度までに実装した離散事象シミュレーションプログラムを用いて,今年度は脳構造ネットワーク上での脳情報通信のモデリングを進めた.モデリングの際にはネットワーク上における情報の経路選択プロトコルとして,代表的なプロトコルであるランダムウォークと最短経路選択に加え,ランダムウォークを改良した強化ランダムウォークをそれぞれ仮定した.強化ランダムウォークでは,経路選択の際に隣接ノードの状態についての知識が利用され,情報はサービス中のbusyノードを避けながらランダムウォークし,またターゲットノードが隣接ノード群に含まれる場合には情報がターゲットノードに直接伝送される.以上3種類の経路選択プロトコルをそれぞれ仮定して脳情報通信のシミュレーション実験を実施し,脳構造ネットワーク上の任意のソース・ターゲットノード間の平均情報伝達時間を計測した.その結果,強化ランダムウォークを仮定した場合において,経路選択に利用できるネットワーク構造に関する知識が限られているのにも関わらず,平均情報伝達時間が通常のランダムウォークを仮定した場合よりも大幅に短くなり,ネットワーク構造の知識をフルに利用する必要のある最短経路選択を仮定した場合に匹敵するほどの短い値になることがわかった.このことは,脳情報通信モデルにおける経路選択プロトコルとして,強化ランダムウォークを仮定することがより妥当であることを示している.以上の研究により,脳構造ネットワークには強化ランダムウォークのように隣接ノードの知識のみを利用することで効率的な情報通信を可能にする機能が備わっていること,ならびに,隣接ノードのみの知識を利用した経路選択プロトコルの設計により既存の情報ネットワークの効率性を改善しうることが示唆された.
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