本年度対外的に発表した成果は,昨年度の結果を論文にまとめ,arXivに投稿したことである.非局所コンパクト空間に対するRKK理論やGuoliang Yu氏が講演で定義した「Hilbert多様体のC^*環」に関する性質の研究などの新しい概念を多く含むことや,「Hilbert多様体のC^*環」に関する詳細な解析的研究を含むことにより,100ページを超える長い論文となった.この結果の位置づけについては昨年度の研究実績を参照のこと. その後,上記の研究課題を更に進めるには,「Hilbert多様体のC^*環」に対する幾何学的な理解が不可欠であると判断したため,それに関する知見を深めることができ,かつそれ単体で興味深いと思われるいくつかの問題の研究を行っている.現時点ではすぐに発表できる結果は出ていないが,いずれもこれまでの研究の経験を活かせるものである.具体的には,Witten種数の非可換幾何的正当化の研究を行っている.Witten種数は「ループ空間上の同変指数」というアイディアで定義されたものであり,幾何学的状況はこれまでの私の研究対象とはかけ離れているが,上記の論文の結果を直接利用できるところがあった.Witten種数を非可換幾何的に正当化するには決定的なピースが一つ欠けているので,その理論を完成させるのは今後の課題とする.この研究は,本研究課題の文脈で言えば「Hilbert多様体のC^*環に対する理解を深める研究」と位置づけられる.数学全体の文脈で言えば,「Wittenの素朴なアイディアをそのまま数学化する研究」と位置づけられる.いずれにしても重要な位置を占める. このように,これまでの研究の経験を生かして,当初設定した問題を見据えながらも新たな問題にも挑戦しているところである.
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