本研究の目的は、ヤツメウナギ初期視覚系の機能分析から脊椎動物の原始的視覚系を解明することである。具体的には、①CRISPR-Cas9ノックインと②in vivo神経活動記録技術を組み合わせ、神経回路の構造から推定されたこの神経回路モデルを神経生理学的に検証することを課題とする。 本研究の成果として、まず①CRISPR-Cas9ノックイン技術の確立に成功したことが特筆に値する。ヤツメウナギに対するCRISPR-Cas9技術の適用は、これまでノックアウトの報告はあったものの、ノックインの報告はなかった。本研究を通して、脊索マーカー遺伝子のBraや筋細胞マーカー遺伝子のMA2を発現する細胞特異的にレポーター遺伝子(GFP)の発現の誘導に成功しただけでなく、発展的な実験として、SoxE3発現細胞すなわち神経堤細胞特異的にDendra2を発現させる個体の作出に成功し、紫外光による光変換を利用した細胞系譜トレースが可能となった。本手法は、カルシウムセンサータンパク(GCaMP)やチャネルロドプシンの導入などによるカルシウムイメージングや光遺伝学への応用も期待される。 また②in vivo神経活動記録技術の確立についても、ゼブラフィッシュ幼生の神経生理学で用いられている手法をヤツメウナギ初期幼生に応用することで、蛍光デキストランによって可視化した内側縦束核ニューロンの電気活動をon-cellパッチクランプ法によって記録できた。ただし安定的なデータの取得には至っておらず、sharp electrodeによる細胞内記録も含め、手法のさらなる洗練が期待される。
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