研究課題/領域番号 |
18J00049
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
伊藤 慎太郎 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 超新星背景ニュートリノ |
研究実績の概要 |
現在の宇宙はビッグバンによって生まれ、その際水素やヘリウムなどの軽い元素のみ生成された。その後、大質量星への進化を経て、超新星爆発によって様々な元素が合成されたと考えられているが、詳細はまだ分かっていない。この宇宙初期から起きてきた超新星爆発により生成された超新星背景ニュートリノは現在も宇宙を漂っている。この超新星背景ニュートリノのエネルギースペクトラムは超新星爆発の頻度、つまり星の質量や地球からの距離等に依存する。よって、これを捉えることができれば、星や銀河の形成、宇宙の質量分布等の宇宙誕生から現在までの恒星の進化の歴史の理解が劇的に進む。 しかし、過去にスーパーカミオカンデにて超新星背景ニュートリノの探索実験が行われたが、発見には至らなかった。超新星背景ニュートリノは強度が弱く、これを観測するにはバックグラウンドを大幅に減らし、検出効率を上げ、かつ探索可能なエネルギー領域を広げる必要があると結論づけられた。そこで、スーパーカミオカンデにガドリニウムを溶解させて中性子を捉える機能を付加させることで、これらの問題点を全て解決して、世界初の超新星背景ニュートリノの観測を目指したSK-Gd実験が計画された。具体的に、0.2%の硫酸ガドリニウム(ガドリニウムで約0.1%) を溶解させることで、約90%の中性子捕獲効率が得られる。 本研究では、まずは目標よりも1桁濃度の低い0.02%まで硫酸ガドリニウムを溶解させ、その後検出器が安定化したら徐々に濃度を上げていき、目標の0.2%まで溶解させる。そして、未発見の超新星背景ニュートリノの観測を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述のように、スーパーカミオカンデに硫酸ガドリニウムを溶解させることで、中性子同時計測を可能にし、世界初の超新星背景ニュートリノの観測を目指したSK-Gd実験が現在準備中である。スーパーカミオカンデは多目的検出器であり、太陽ニュートリノや大気ニュートリノ、陽子崩壊などの観測も行っている。特に、太陽ニュートリノを観測すべく、スーパーカミオカンデでは超純水を用いている。 ところが、硫酸ガドリニウムには、ウランやトリウム、ラジウムといった放射性不純物が含まれており、今後も太陽ニュートリノの観測を行うには、超高純度の硫酸ガドリニウムが必要である。加えて、硫酸ガドリニウムを環境中へ漏れ出さないために、スーパーカミオカンデのタンクの補修工事も行わなければならない。 平成30年度は、申請者が開発した、硫酸ガドリニウム中の微量の放射性不純物を高精度で測定する手法を用いて、高純度の硫酸ガドリニウムの選定を行った。その結果、実際にスーパーカミオカンデに溶解させる高純度の硫酸ガドリニウムを決定することができた。この申請者が開発した測定技術は既に学術論文にて発表している。また、スーパーカミオカンデのタンクの補修工事も行い、その結果、優位な水漏れは見られず、当初の目標を達成した。これは、日本物理学会で報告済みである。 これらのように、スーパーカミオカンデに硫酸ガドリニウムを溶解させる準備は着々と進んでいる。以上の点から、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、いよいよスーパーカミオカンデのタンクに超高純度の硫酸ガドリニウムを溶解させ、SK-Gd実験を開始する。まずは、目標よりも1桁低い、0.02%の硫酸ガドリニウムを溶解させる(ガドリニウムで約0.01%)。これにより、約50%の中性子捕獲効率が得られる。 硫酸ガドリニウムを溶解させた後は、まずは検出器の較正を行う。具体的には、電子線LINACや中性子発生装置といった、従来スーパーカミオカンデ検出器の較正に用いてきたものを使用する。検出器の較正が完了したら、超新星背景ニュートリノの観測を開始する。 その一方で、タンクの補修工事は行ったが、実際にスーパーカミオカンデのタンクからガドリニウムが漏れていないことをモニターすることは重要である。申請者は、超微量のガドリニウムを高精度で測定する手法の開発にも既に着手している。SK-Gd実験を開始する前に、この手法を完成させ、SK-Gd実験開始後にスーパーカミオカンデからのガドリニウムの漏れのモニターを行う。 しばらくは、硫酸ガドリニウム0.02%の濃度で観測を行い、装置が安定化したら、そこから徐々に濃度を上げていき、目標の0.2%まで硫酸ガドリニウムを溶解させる(ガドリニウムで0.1%)。この濃度で、約90%の中性子捕獲効率が得られる。その後、約10年間の観測を行っていくが、まずは平成31、32年度で得られたデータを解析し、世界初のガドリニウム水チェレンコフ検出器による超新星背景ニュートリノの探索を行う。
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備考 |
受け入れ教員である小汐准教授の研究室ホームページである。
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