研究実績の概要 |
本年度は概日時計中枢である脳視床下部の視交叉上核 (SCN)において, 発生初期から持続して陽性であるSix3遺伝子に蛍光タンパクをノックインしたマウスES細胞 (Six3 mVenus)を用い, SCNオルガノイド (SCNとその周辺組織を含むパターンと極性を持った構造体) 作製のための分化誘導条件の検討をおこなった. まずSix3 mVenusの蛍光発現がSix3のmRNA, タンパク発現と相関することを確認し, 信頼性の高いマーカーであることを確認した. そのうえでSix3 mVenusの傾向を指標に継代方法, ES細胞の維持培養, 分化時の播種細胞数, 培地の種類, Plateの種類, 細胞外基質, 培地組成, 酸素分圧, 培養期間, 位置情報を規定するシグナルアゴニスト・アンタゴニストの濃度・添加のタイミングなど, さまざまな条件を検討した. その結果, Six3蛍光の持続強陽性が再現性よく得られるロバストな分化条件をみつけることができた. 一方, Six3はSCNでの発現が高く, 成体での間脳限局性は高いものの, SCN以外の神経核でも広範に発現する. したがって, 次に, 免疫染色・定量的PCRによる検証をおこなった. まず, SCNなど腹側視床下部の個々の分化マーカー (Six3, Six6, Otp, Lhx1, VIP, AVP) をマウスの組織を用い, 感度特異度よく染色可能な抗体を特定した. それらの抗体を用いて細胞塊の染色をおこなったところ, 終分化したSCNと思われる成熟神経組織を含んでいることがわかった. また, 定量的PCRにおいてもSCNの分化マーカーの発現上昇を確認することができた. 総じて, ES細胞からの完全三次元培養によるSCNオルガノイドの作製に成功したと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
終分化マーカーを発現する腹側視床下部が試験管内で作製できるようになり, 再現性も確認が取れているため. また, 完全三次元培養で目的が達成されており, 試験管内作製の脳回路で行動パターンを変える移植系という, インパクトの大きい実験系の構築がみえてきたため.
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今後の研究の推進方策 |
SCNは破壊により概日時計が破壊され, 組織(回路)移植により概日時計を回復させることがしられている. 脳の中でこのような実験の行える部位は少なく, ES細胞由来の神経回路で行動リズムを回復できることができればインパクトが大きい. したがって, 次に, 移植に堪えうる組織を切り出し可能なレポーターESを作製していく. また, 並行して時計遺伝子レポーターES細胞を用い, 個々の細胞の概日時計の同期性を検証し, SCNとしての機能を確認していきたい.
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