本年度は東京大学大気海洋研究所にて、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS; Thermo Scientific社製ELEMENT XR)を用いたU/Th年代測定の測定手法開発に着手した。標準溶液の繰り返し測定を行い、妨害スペクトル除去のための測定手法や補正方法の検討を行なった。現段階でのELEMENT XRを用いた測定方法では、試料量を1 gまで減量した測定は十分可能であることを確認した。しかし、現段階では測定誤差が大きく、さらにELEMENT XRを用いた高精度測定が課題であり、試料の化学前処理についても再検討が必要であることが判明した。 また、本年度は熱帯中央太平洋に位置するマーシャル諸島に野外調査へ行き、マーシャル諸島・マジュロ環礁にて化石サンゴ採取を行なった。東京大学大気海洋研究所にて放射性炭素年代測定を行なった結果、採取した化石サンゴは完新世中期から後期のものであることが判明した。これらの化石サンゴ骨格について、X線写真撮影およびX線回折装置によって続成作用の有無を確認し、分析に適した試料の選定および測線の決定を行なった。今後、上述の東京大学大気海洋研究所におけるU/Th年代測定法を確立したのち、この試料を用いて黒潮源流域かつ非アジアモンスーン域における完新世海洋リザーバー年代(ΔR)変動復元や古気候復元を行う予定である。前年度までに明らかにした黒潮流域のΔR変動と合わせて考察することで、熱帯から西太平洋にわたる完新世ΔR変動について議論が可能になる。また、ΔRは海洋循環変動と密接に関係して変動することが明らかになっているため、黒潮流域の完新世ΔR変動と、熱帯中央太平洋といった非アジアモンスーン地域の完新世ΔR変動を比較することにより、東アジアモンスーンや黒潮の変動メカニズムの理解にも貢献すると期待される。
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