研究課題/領域番号 |
18J00091
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
木矢 星歌 金沢大学, 理工研究域生命理工学系, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 性行動 / 即初期遺伝子 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ(以下ハエ)の雄は複数の感覚情報を統合し、雌への求愛・交尾行動を行う。この行動について、感覚入力・運動出力部分を制御する神経回路は明らかにされつつある一方、脳高次中枢での行動制御機構の多くは未解明である。研究開始時点までに、活動依存的に神経細胞をラベルする手法により、交尾行動中の雄の脳高次中枢で細胞群aSP2が活動することが示唆されていた。本研究は、雄の交尾行動におけるaSP2の機能を解明し、高次中枢における交尾行動制御機構の一端を明らかにすることを目的としている。
aSP2細胞群特異的に内向き整流性カリウムチャネルKirを発現させることにより、aSP2の活動が抑制された雄ハエを作出した(aSP2抑制ハエ)。aSP2抑制ハエの雌に対する求愛・交尾行動を対照群と比較し、行動のどの要素に差異が見られるかを観察した。その結果、aSP2抑制ハエでは求愛の持続時間が有意に短かった。さらに、雄の雌に対する定型的な求愛行動の要素(定位・追跡・片翅の伸展・リッキング・交尾試行)はaSP2抑制ハエでもすべて観察されたが、それぞれの行動の持続時間の合計は対照群と比較して短かった。以上の結果から、aSP2は雌に対する求愛開始を判断し行動を開始する為には必要でないが、雄の求愛行動の持続に必要であることが示唆された。この結果は、これまでの研究内容と合わせて論文として発表した。 活動した神経細胞のリアルタイムでの活動解析を行うため、活動した神経でカルシウムインジケーターGCaMP6f を発現するハエを作出した。複数の接着剤を使用して試行した結果、紫外線によって硬化する接着剤をハエの背中に付着させて虫ピンと接着させ、粘土とカバーガラスを用いて虫ピンを固定する方法で最も安定性が高く、侵襲性の低い拘束を行うことが出来た。今後はこのショウジョウバエ系統と拘束法を用いて、カルシウムイメージング解析を行うことを予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度得られた研究結果を、以前の研究内容と合わせて論文として発表し、研究を進展させた。一方、出産・育児に伴う研究中断期間(3ヶ月)があり、予定していた実験の一部(カルシウムイメージング)を予定通り遂行できなかった。以上を総合的に見て、進捗はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.神経活動が求愛・交尾行動のどの時点で起こるのか、またどの感覚入力に応答して起こるのかは不明である。そこで、雌提示に対する雄のaSP2 の神経活動をカルシウムイメージングにより解析する。具体的には、aSP2にカルシウムインジケーターを発現する雄に対し、雌の視覚・嗅覚・味覚刺激を与えた際の反応を記録する。 2.過去の解剖学的知見から、aSP2は雄の交尾行動を制御するP1神経に投射しているが、P1への機能的な接続の有無や神経伝達物質は不明である。そこで、aSP2の下流神経回路を同定するための実験を行う。aSP2から放出され交尾行動に影響する神経伝達物質を同定する。aSP2はグルタミン酸トランスポーター(vGlut)を発現することが示唆されているため、まずグルタミン酸の役割を検証する。aSP2特異的にvGlutのRNAiノックダウンを行うことでグルタミン酸放出を阻害し、雄の交尾行動に影響が見られるかを調べる。影響が見られない場合には、免疫染色やin situハイブリダイゼーションにより神経物質の同定を行い、その経路の阻害を同様に行う。 次に、P1神経のカルシウムイメージングによりaSP2との機能的な接続を検証する。
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