研究課題
後天性免疫不全症候群(エイズ)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫細胞に感染することにより,免疫細胞を破壊して免疫不全を起こす疾患である。本邦ではHIV感染者1.9万人,世界では2017年現在で3,690万人に昇る。現在では,逆転写酵素阻害剤の発見,その後の新薬の開発により治療が可能になった。しかしながら,エイズを根治する治療法は未だ確立されていない。本研究では,新たな治療薬の開発のため,抗HIV活性を有する海藻由来生理活性物質の探索を行った。市販のアオサ,コンブ,ヒジキ,ノリをサンプルとし,水抽出(水溶性画分)とエタノール抽出(脂溶性画分)をそれぞれ抽出した。その後,HIV-1 (R9)とTZM-bl細胞を用いて抗HIV-1活性を検討した。水溶性画分では,アオサ,コンブ,ヒジキにおいてHIV-1の初期感染を有意に抑制した。脂溶性画分において,コンブのみ初期感染を抑制した。これまでの報告により海藻由来多糖類であるフコイダンは抗HIV-1活性を有することから,海藻由来多糖類であるアスコフィラン,アルギン酸,フコイダン,ポルフィランの抗HIV-1活性を比較検討した。アスコフィラン及びフコイダンではHIV-1 (R9およびJR-FL)の初期感染を強く阻害した。一方で,アルギン酸,ポルフィランは弱い抗HIV-1活性を示した。しかしながら,HIV-1感染細胞内ウイルス量への影響が無かったことから,これら多糖類はHIV-1の初期感染を抑制すると考えられた。さらに,硫酸基を持つ化合物が血中のアルブミン(BSA)により抗HIV-1活性が阻害された報告より,10%FBSおよび50%FBS存在下でHIV-1初期感染を検討した。アスコフィラン,フコイダンの抗HIV-1活性が50%FBSにおいて低下したことから,これら海藻由来多糖類の抗ウイルス活性は非特異的であると考えられた。
3: やや遅れている
海藻の水溶性・脂溶性画分にはHIV-1の初期感染を抑制することを見出した。しかしながら,どちらも粗抽出液であるためさらなる分画が必要である。また,水溶性画分には水溶性多糖類が含まれている可能性があり,高分子生理活性物質を取り除く必要がある。また,得られた水溶性・脂溶性画分はHIV-1の初期感染を抑制するものの,HIV-1感染細胞内ウイルス量への効果を検討しておらず,細胞内ウイルスの増殖抑制作用を有する生理活性物質を探索しなければならない。一方で,アスコフィラン,ポルフィランのHIV-1の初期感染を抑制することを見出した。さらに,HIV-1の他,B型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV)の初期感染を抑制することも見出した。興味あることに,ポルフィランは細胞内HCVを抑制することが示唆されており,抑制機構は不明であるが,何らかの細胞内情報伝達経路を活性化させていると考えられる。
得られた粗抽出液をゲルろ過クロマトグラフィー等によりさらに分画し,抗HIV-1活性を検討する。特に,HIV-1感染細胞内ウイルスの増殖抑制作用を有する生理活性物質を探索する。ウイルス増殖抑制作用を示した生理活性物質については,その抑制メカニズムを明らかにする。また,HIV-1感染細胞を排除する免疫細胞を活性化する生理活性物質を探索するため,得られた生理活性物質のマクロファージやTリンパ球に対する免疫賦活作用を検討し,その活性化機構を遺伝子解析等により明らかにする。エイズ関連疾患である原発性滲出性リンパ腫(PEL)は,エイズ発症者や臓器移植を受けた患者に発症しやすい。原因として,免疫不全に陥りヒトヘルペスウイルス8 (HHV-8)に感染しやすくなるからである。エイズ発症者の約3割で悪性リンパ腫が発症し,その中で5%をPELが占める。CHOP療法と呼ばれる多剤併用療法が試みられるが,予後が非常に悪く,発症後約6か月で死亡するため, PELの化学療法耐性が原因と考えられている。そこで,上記の多糖類のPELに対する抗がん作用を調べたところ,ポルフィランはPELに対して,濃度ならびに時間依存的に細胞増殖を抑制した。詳細な抑制機構は未だ不明であるが,これら海藻由来生理活性物質にはPELに対する抗がん作用を有することが示唆されている。そのため,得られた生理活性物質のPELに対する抗がん作用も検討する。
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