研究課題/領域番号 |
18J00112
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
上野 幹憲 熊本大学, ヒトレトロウイルス学共同研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | AIDS / HIV / 海藻 |
研究実績の概要 |
後天性免疫不全症候群(エイズ)はヒト免疫不全ウイルス(HIV)が免疫細胞に感染することにより,免疫細胞を破壊して免疫不全を起こす疾患である。逆転写酵素阻害剤の発見,その後の新薬の開発により治療が可能になった。しかしながら,エイズを根治する治療法は未だ確立されていない。本研究課題において,海藻由来酸性多糖類であるアスコフィランとポルフィランはHIV-1の初期感染を抑制することを明らかにした。しかしながら,HIV-1感染細胞内ウイルス量への効果が無かった。よって,HIV複製を抑制する新たな治療薬の開発のため,抗HIV活性を有する海藻由来生理活性物質の探索を行っている。市販のアオサ,コンブ,ヒジキ,ノリを海藻サンプルとし,水溶性画分(水抽出)と脂溶性画分(エタノール抽出)をそれぞれ抽出した。その後,HIV-1とTZM-bl細胞を用いて抗HIV-1活性を検討した。水溶性画分では,アオサ,コンブ,ヒジキにおいてHIV-1の初期感染を有意に抑制した。脂溶性画分において,コンブのみ初期感染を抑制することを見出した。水溶性画分においては,何らかの多糖類が含まれていると考えられた。既報において,アオサには硫酸化ラムノースとウロン酸から構成されるウルバン(Ulvan)が含まれている。また,コンブとヒジキではフコイダンあるいはアルギン酸が含まれており,これらの多糖類が初期感染を阻害したと示唆された。よって,水溶性画分では,高分子量生理活性物質を取り除き,低分子量の分画を進めている。脂溶性画分においては,コンブ由来脂溶性画分に着目し分画を進めている。さらに,エイズ関連リンパ腫である原発性滲出性リンパ腫(PEL)に対してもノリの水溶性画分が部分的に細胞増殖を抑えることを見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
市販のアオサ,コンブ,ヒジキ,ノリを海藻サンプルとし,水溶性画分(水抽出)と脂溶性画分(エタノール抽出)をそれぞれ抽出した。水溶性画分では,アオサ,コンブ,ヒジキにおいてHIV-1の初期感染を有意に抑制した。脂溶性画分において,コンブのみ初期感染を抑制した。既報において,アオサには硫酸化ラムノースとウロン酸から構成されるウルバン(Ulvan)が含まれている。また,コンブとヒジキではフコイダンやアルギン酸が含まれている。水溶性画分のこれらの多糖類が初期感染を阻害したと示唆された。よって,水溶性画分では,高分子量生理活性物質を取り除き,低分子量の分画を進めている。脂溶性画分においては,コンブ由来脂溶性画分に着目し分画を進めている。しかしながら,両画分の分離は十分に進んでいない。ゲルろ過・イオン交換クロマトグラフィーおいては分子量に合わせて適切な担体およびバッファーを変更することにより,分離を進めている。一方で,ノリの水溶性画分において,エイズ関連リンパ腫であるPELに部分的に細胞増殖を抑制した。加えて,ノリ由来多糖類であるポルフィランはPELの細胞増殖を抑制すること見出している。
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今後の研究の推進方策 |
水溶性・脂溶性画分は引き続き分離を進め,抗HIV活性を有する生理活性物質の探索を行う。抗HIV活性を有する画分では,作用機序を明らかにするため,HIVの標的受容体への結合阻害,HIVが有するプロテアーゼや逆転写酵素阻害などを解析する。これら抗HIV活性を有する画分を探索出来た場合,生理活性物質の単離・精製,構造解析を行う。さらに,HIV潜伏感染細胞におけるHIV複製を再活性化させる生理活性物質の探索も行っていく。近年,エイズの治療法としてShock and Killが提唱されている。HIV潜伏感染細胞をHDAC阻害剤やPCK刺激剤のより再活性化させ,同時に抗エイズ治療薬でHIVを排除する治療法である。海藻由来多糖類であるアスコフィラン,フコイダン,アルギン酸はNF-kappaBを活性化させることから,HIV潜伏感染細胞を再活性化させることができると考えられる。よって,これら多糖類のHIV潜伏感染細胞の再活性化を検討する。また,ポルフィランはエイズ関連リンパ腫であるPELの細胞増殖を抑制することを見出している。ポルフィランはLPS刺激マウスマクロファージの一酸化窒素やTNF-alphaの抑制やLPS投与マウスのエンドトキシンショックを緩和することから,抗炎症作用を有することが報告されており,難治性悪性リンパ腫であるPELの細胞増殖に重要なNF-kappaBなどを抑制すると考えられる。よって,ポルフィランのPELに対する細胞増殖抑制メカニズムを明らかにする。
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