研究課題/領域番号 |
18J00170
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
藤浪 海 フェリス女学院大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ディアスポラ / 沖縄 / 移民 / エスニシティ / 植民地主義 / トランスナショナリズム / 自治体行政 |
研究実績の概要 |
2020年度は、沖縄県における「世界のウチナーンチュ」をめぐる取り組みの内容とその目的について検討を行った。主に実施したのは、以下の3点である。 第一に、「世界ウチナーンチュの日」制定の目的・経緯について、発案者である在沖南米出身者へのインタビュー調査とその活動の参与観察調査を実施した。これを通じて①当該記念日の制定による各離散集団の沖縄アイデンティティの高揚が企図されていたこと、②こうした目的が付された背景に、発案者である在沖南米出身者自身の本土・南米社会等での被差別経験があることなどが明らかになった。 第二に、沖縄県が実施するウチナーンチュ子弟等留学生制度について、沖縄県庁と南米出身留学生6名へのインタビュー調査、そして留学生の記した手記の収集・分析を行った。①沖縄県庁はこの事業を通じて維持されるトランスナショナルなネットワークによって、沖縄社会がかかえる政治的・経済的問題の乗り越えを企図していること、②実際に留学生自身も、沖縄芸能文化を習得し出身社会での芸能文化の継承に寄与しており、出身社会での県人会活動の重要な担い手となっていることなどが明らかになった。 第三に、南風原町の海外移住者子弟研修生受入制度の事業内容についての調査を実施し、同事業の目的・内容、および直面している課題について検討した。①当該事業が当初は南風原町の利害関係というよりもむしろ南風原町出身の海外移住者の声を受け1989年に始まっており、移民1世の希望を強く反映する事業内容となっていたこと、②しかし近年、社会的環境が変化するなかで南風原町にもたらすメリットが厳しく問われるようになり、沖縄の社会問題に関心をもつ研修生と南風原町に暮らす若者の交流を通じて、若者らの社会問題への認識を高める方向へと事業内容が変化していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず調査実施状況については、「世界のウチナーンチュ」をめぐる取り組みを推進する複数のアクターへのインタビュー調査を実施することで、沖縄社会全体にかかわるマクロな水準のみならず、2018年度に十分捕捉できなかった団体や個人といったメゾ/ミクロ水準との関連において事業推進の力学を把握することができた。また南風原町の調査からは、沖縄県内各市町村それぞれのローカルな文脈が取り組みの内容に強く影響することを明らかにすることができ、今後各市町村を検討するうえでの研究の方策についても明確化することができた。さらに2018年度に着手できていなかった、沖縄県の沖縄移民関連各事業が離散集団に与える影響についての調査に関しても、「世界のウチナーンチュ」関連資料の収集を通じて進めることができた。以上の作業を通じて2020年度に予定しているグローバルなエスニシティの編成に関する理論構築に向けてデータを蓄積することができたことを踏まえ、調査はおおむね順調に進展していると考える。 次に研究成果の公表については、横浜市鶴見区の沖縄系住民の民族関係の変容についての論文が『年報社会学論集』に掲載されたほか、沖縄系離散集団間のトランスナショナルなネットワークの形成についての単著が出版され、また移民政策学会冬季大会では「世界のウチナーンチュ」をめぐるNPO団体の取り組みについて報告するなど、複数のテーマについて出版・報告の機会を得られ、隣接領域の研究者からも今後の研究の方策にかかわる多くのフィードバックを得ることができた。以上の点から、調査実施状況のみならず成果公表に関しても、おおむね順調に研究は進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は以下の3つの調査を実施する。第一に出移民に対する送り出し社会からの政策的取り組みがエスニシティのグローバルな再編成に及ぼす影響について、理論枠組みの構築に取り組む。出移民政策に関する先行研究では政策主体として専ら国家が想定され、自治体レベルでの政策は十分検討されてこなかった。そこで自治体政策と出移民政策、双方をめぐる理論の接続をはかり、エスニシティのグローバルな再編成をめぐる新たな理論枠組みの構築をはかる。 第二に沖縄側についての研究(課題A)として、沖縄県のウチナー・ネットワーク構築事について資料調査を実施する。2018~19年度に収集した関連資料を検討することで、沖縄社会をめぐるいかなる状況のもとで同事業が展開してきたのかを明らかにする。感染症の拡大が収束した場合には、「世界のウチナーンチュ」をテーマとした教育実践を行う学校教員に対する参与観察・聞き取り調査も実施する。 第三に離散地側についての研究(課題B)として、世界のウチナーンチュ関連事業が海外の沖縄系移民のアイデンティティや活動に及ぼす影響について資料調査を実施する(11~3月)。2018~19年度に収集した県費留学生制度の手記と各国の元県費留学生団体の活動記録を用い分析を行う。感染症の拡大が収束した場合には、ハワイにおいて沖縄県人会活動の参与観察を実施し、「世界ウチナーンチュの日」の制定が海外の県人会活動に与えた影響を検討する。 最後に、2018~2019年度に得られたデータとその分析結果について、2020年度は以下の形で発表を行う。まず沖縄県庁における「世界のウチナーンチュ」事業の意図と内容については関東社会学会大会で口頭報告を行い、『年報社会学論集』に論文を投稿する。また事業参加のために来沖した南米・ハワイ出身者のアイデンティティの変容については、日本移民学会冬季大会で口頭報告を行う。
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